第204回 中国政府と株式市場との関係【北京駐在員事務所から】

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第204回 中国政府と株式市場との関係【北京駐在員事務所から】

中国政府で証券市場及び証券会社を管轄する中国証券監督管理委員会(CSRC)の劉主席が先月末に記者会見を行い、今後のCSRCの方針として、株価操作など違法行為に関する監視を強化する一方、IPO(株式新規公開)については、より市場を尊重し、CSRCのコントロールを弱めると述べたことが注目を集めています。

中国では、株式の新規上場にはCSRCの承認が条件となっており、CSRCは市況、株価を見ながら上場案件の数や市場から吸収される資金の規模をコントロールしてきました。
過去には、市況が悪化すると、需給改善のために「IPOはストップ」となったこともあり、IPOの承認を待つ企業は常時数百社に上ると言われています。
投資家の側にも、「株価が下がれば政府が対策を打ってくれる」との期待が強く、今では聞かれなくなりました日本のPKO(Price Keeping Operation)のような感じです。
残念ながら、まだまだ市場原理が貫徹しているとは言えない状況にあります。
中部の武漢市にある武漢科技大学の教授は、「CSRCの主席が、これまで非常時に行われていたIPOの停止を批判したのは、今回の劉氏が初めてではないか」と述べています。
また、同教授は、政府がIPOにアクセルとブレーキを踏む時代は終わり、株式市場への介入も徐々に減少していくだろうと期待を示しています。

これまで、中国でのIPOは、その時期から公開価格の決定まで、政府が厳格にコントロールしており、上場承認の取得に数ヶ月、時には数年を要する状況にありました。政府も問題を認め、IPOに関する制度の改革は長く課題とされてきたのですが、政府の関与に期待する投資家の声もあり、遅々として進んでいませんでした。
2015年の夏には、株価急落を受け、IPOが凍結され、CSRCと市場との関係についての見直しも中断したのですが、その後、市況が落ち着いたため、CSRCも徐々にIPOの承認件数を増やし、今回の劉主席に発言につながっています。

CSRCでは、副主席の方氏が、外国金融機関が中国での合弁企業に出資する割合の上限を引き上げ、参入を促す計画であるとも述べており、こちらも注目されます。
もっとも、中国が門戸を広げようとしているのは、ベンチャーキャピタルや運用会社などで、証券仲介、特にリテールの分野は最もハードルが高いものになっています。

市場の運営については参加者に委ね、政府は監視と不正行為の撲滅に注力するという役割分担ができれば理想的ですが、中国の場合、投資家の多くが個人で、政府の管理あるいは介入への期待も高いものがあります。
政府にとっても、株価の下落を放置した場合に、投資家の不満が自分たちへの批判に向かうことは避けたく、いつか通った道に戻ってしまうのではないかとの不安は拭えません。
劉主席あるいはCSRCの「本気度」が、いずれ試されることになりそうです。
改革が徐々に進んでいるように見えるとは言え、世界の主要市場と比較するとまだ「違う」と思わされたニュースでした。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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