マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
先週11月2日木曜日。英国の中央銀行(BOE)は金融政策委員会(MPC)にてリーマンショック以来、10年ぶりに政策金利を引き上げました。通貨ポンドはこれを受けて大きく上がったかというと、、、むしろ大きく下落してしまいました。
ポンド/ドルのチャートを見ると、今回11月2日、政策金利を10年ぶりに引き上げたにも関わらず急落となりましたが、前回9月14日のMPCでは「政策変更なし(利上げなし)」であったにもかかわらず急騰していたことが確認できます。利上げしなかった9月のMPCでポンドが買われ、利上げを発表した11月のMPCでポンドが売られる、、、なぜこのような値動きとなるのでしょうか。
ポイントは金融政策や経済指標の結果そのものではなくて、その発表があるまでの織り込み度にあります。9月14日MPCでは利上げは実施されなかったものの、その2日前の12日に発表された英国の8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+2.9%にまで上昇していました。(前回分は+2.6%。一気に0.3%上昇し3%目前にまで上昇した)
英国インフレ目標は、消費者物価上昇率の前年度比プラス2%ですが、実際の物価上昇率が上下1%を超え乖離した場合は、BOE総裁が財務相に公開書簡を提出し、その理由や対応策を説明しなければならない、というルールがあります。9月12日に発表されたCPI+2.9%という数字はそのルールに抵触手前ギリギリのラインであったことから、英国が金利を引き上げて物価上昇を抑制するのではないか、との思惑が市場に広がりました。そして2日後に迎えた9月MPCでは、政策金利は据え置かれたものの、MPC委員の大半が「インフレを持続的に目標水準に戻すため、金融緩和措置の一部解除が今後数カ月で適切となる公算が大きい」との見解で一致、MPC委員予想ではインフレ率は翌月(10月)に3%を超え、複数年にわたり中銀目標の2%を上回り続ける見通しであることを表明したのです。(実際に10月17日に発表された9月のCPIは前年同月比+3.0%となり2012年4月以来5年半ぶりの高い伸びとなりました)つまり、利上げこそなかったものの、次回以降のMPCでは政策金利の引き上げがある可能性が示唆された、ということ。これを受けて、利上げがないにもかかわらずポンドが大きく買い上げられる値動きとなりました。
こうした値動きは、先回りして利上げを織り込みに行くものであり、結果、実際に利上げがあっても事実で売られるという結果をもたらします。市場には「噂で買って事実で売る」という格言がありますが、今回の9月半ばまでのポンド上昇はまさに、市場の思惑を織り込みに行く値動きでした。
ところが今回の英国利上げに対しての市場の織り込みは、思いのほか短期に散ってしまいました。9月22日、米国の格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、英国の信用格付けを「Aa2」とし、1段階引き下げたのです。これを受けてポンド/ドルは下落を開始、9月12日のCPI発表前の水準まで戻ってしまいました。ムーディーズは「EU離脱の経済的悪影響で中期的に英経済の強さが衰えることで、財政圧力が悪化するだろう」としており、ブレグジットの悪影響を懸念した格好。市場は、英国のインフレ上抑制策としての利上げをテーマにポンドを買うべきなのか、ブレグジットの悪影響による財政悪化をテーマにポンドを売るべきなのか迷う展開に入っていきます。
ポンド/ドルは11月2日のMPCまではもみ合いに終始することとなりましたが、10月27日から11月1日(MPC前日)までは、小さな上昇トレンドを形成。日足で見ればレンジ内での上昇でしたが、レンジ上限の1.3300ドルを超えられずに反落。MPC前にレンジ上限までの上昇が見られたことは、少なからずMPCに向けての利上げを織り込む動きがあったと思われます。この場合は、利上げがあっても「噂で買って事実で売る」の展開となることが濃厚。利上げは前回9月MPCですでに思惑として発生しており、サプライズではありません。むしろ利上げがなかった時の方がサプライズですね。
そして迎えた11月2日のMPCでは、市場の予想通りの利上げが発表されましたが、2018年の経済成長とインフレ見通しが引き下げられるというネガティブサプライズが。また声明では2020年末の政策金利予想が1.0%であることが明らかとなりました。つまりこの先3年間で2回の利上げを想定するものですが、これでは次回利上げ時期はわかりません。「継続しての利上げの見込みなし」ということでポンドは下落を強める結果となりました。
米雇用統計なども同様ですが、結果が重要ではありません。その結果に至るまでの市場の期待と織り込み度が重要なのです。現在、相場にどのようなテーマが存在し、そのテーマによる織り込み度がどの程度か、ということを見極めることが肝要。そして、現在、英国利上げ思惑は事実が出たことで消滅しただけでなく、継続性がないという失望も加わっていますので、その失望が織り込まれる形でのポンドの下落はしばらく続くのではないか、と見ています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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