マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国は長く、豊富で安価な労働力を武器に、「世界の工場」と呼ばれて来ました。
近年は、人件費の高騰により、製造業各社が東南アジアやインド等に生産拠点を移しており、中国は生産地というよりも消費の一大市場として注目されるようになっています。
政府も、労働集約型の製造業は競争力が低下していると認識しており、付加価値を高め、世界の中での競争力を維持向上させるための産業政策「中国製造2025」を打ち出し、ハイテク産業などへの支援を強化しています。
電気自動車などは、政府が支援する産業の典型例と言えます。
その中国では、政府も出資する航空機メーカー中国商用飛機有限責任公司(COMAC)がジェット旅客機C919の開発を進めています。
座席数170程度の中小型機で、日本を含め世界各国で数多く供用されているボーイングのB737あるいはエアバスのA320と競合する機種になります。
政府とCOMACは、現在中国の航空会社でも多数用いられているB737やA320を、C919に置き換えることを目指しています。
C919は、米国連邦航空局(FAA)の型式証明の取得を予定しておらず、米国や日本への乗り入れができません。そのため、米国や日本の航空会社への販売ができず、主に中国国内線での供用が想定されています。
国内に膨大な市場を有する中国であればこそ、このようなビジネスが成立すると言うことができます。
そのC919が、このほど上海から内陸の西安(かつての唐の都長安)まで、1,300㎞のテスト飛行に成功しました。所要時間は2時間24分だったそうです。
COMACでは、直近の一週間で6回のテスト飛行を行い、いずれも問題なく終了したとしており、今後テスト用の機体を5機追加し、安全性、燃費効率、整備に要するコスト、客室内の快適性などについて、データの蓄積を進める計画です。
現在の受注残は、国内外の航空会社27社から730機となっており、順調に進めば、2020年から2022年の間に、大手の中国東方航空を皮切りに、引渡しが始まる見込みです。
世界の旅客機市場は、座席数100程度までの小型機を除き、米国のボーイングと欧州のエアバスの二社による寡占状態となっています。特に170席前後の機種の市場は需要が大きく、この市場にCOMACが参入し、二社寡占状態に楔を打ち込むことで業界の勢力図に大きな影響を与えることが考えられます。
中国では、ちょうど日本の高度経済成長期からバブル期のように、まだまだ航空券の価格が高く、長距離の移動でも鉄道が多く利用されています。
今後、所得の向上とLCCの参入加速で、国内の移動に航空便を利用する客が増えることが予想され、C919の販売も順調に推移することが期待されます。
日本では、三菱重工業のグループが、より小型(座席数80程度)のMRJを開発していますが、テスト飛行でトラブルが頻発し、納入の延期が度重なる状況となっています。C919はMRJよりも後発ですが、追い抜く勢いです。
個人的には、C919の利用にはちょっと及び腰になるところですが、2020年代には中国の空を多くのC919が飛び交うことになるのでしょう。COMACは今後さらに大型の機種も開発する計画で、世界市場でその存在を高めることが見込まれます。まずはC919の納入と商業飛行開始が順調に進むか、注目したいと思います。
国産ジェット旅客機の開発という、スケールの大きな話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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