日経平均は、年初から23,000円を突破するなど、2018年も好調な滑り出しを見せています。日本経済に対して強気派であるウィズダムツリー・ジャパン株式会社最高経営責任者(CEO)のイェスパー・コール氏とマネックス証券代表取締役会長松本大による「2018年、世界経済はどうなるか」と題した対談を2回に渡ってお届けいたします。
(収録日:2017年12月19日)

日経平均4万円!?超強気派に松本大が訊く (前編)

考えうるリスクとは

松本:逆に世界経済や日本経済のリスクはなんでしょうか。

イェスパー氏:1つのリスクは米国の経済成長が4%にとどいてくると、米国の長期金利が4%や5%まで引き上がる可能性がでてくると思いますね。いつか米国経済の流動性相場が金融政策にブレーキをかけて崩壊させる。これがリスクになるのではないかと思っています。

松本:もし長期金利が4%や5%に届いたらゼロクーポン債を買いたいですね。

イェスパー氏:そうですよね。僕の目から見て、世界、日本も含めてブームであるということはありえるんです。今、業績は日本が特に強い。ただ、米国の企業の収益力も非常に高い。収益の透明性は全世界で高まってきていて、業績相場は引き続くと思います。プラスアルファでは、今のところまで流動性相場も引き続くのではないかということです。

松本:そういえば、米国株は減税のネタで随分上がったじゃないですか。日本の企業だっていっぱいアメリカに子会社というかキャッシュフローがあって、それ全部が減税のメリットがあるはずだけど、あんまり織り込まれてないんじゃないかと思っているんです。

イェスパー氏:数字で冷静に分析しますと、上場企業、いわゆるTOPIX銘柄の収益の25%は米国から来ています(現地生産や輸出ということである場合)。25%のうち10%の減税になるということは収益マージンをだいたい2.5~3%押し上げるという事になります。

松本:現在の法人税率が35%から21%に落ちるということは、利益が65から79になるので、20%増えるということですよね。TOPIX銘柄の25%がアメリカで利益を上げているとすると、それが、税引き後で2割増える。つまり、TOPIXで5%上昇するということですよね、それだけでね。

イェスパー氏:銀行セクターでいうと、日本の銀行は、一部を除いて米国ではあまり儲かってないわけで、このセクターにおける米国減税にともなう収益効果については、ちょっと微妙になってしまいます。でも、その他の米国に展開している日本の上場企業にとって米国の減税は凄いプラス効果になると思いますね。そして、注目してほしいのは、みんな、東京オリンピック・パラリンピックまでに日本企業のEPSが倍増すると言うと出来ないだろうといわれるのだが、ちょっと待ってください、日本もトランプ減税のようにアグレッシブではないけれど方向性としては減税に向かっているということを考えてほしいのです。そういうことでいうと、2018年は日本の収益の透明性が大きなテーマになると思います。ところで松本さんの一番好きなセクターはなんですか。

松本:あんまりないんですよね。

イェスパー氏:マクロの人間ってことですね(笑)。わたしは輸出セクターと金融セクターに注目しています。私は金融が一番好きなセクターなんです。2017年の世界の大きなテーマは米国の金融セクターでした。JPモルガンとか、バンク・オブ・アメリカとかシティバンクとかだいたいみんな利益が倍増しました。じゃあ、日本はどうかというと、日本のメガバンクについては誰も良いことを言わないですね。でも実は収益のパワーは非常に強くなってきています。日本銀行のゼロ金利政策で利ざやがとれないじゃないか、という意見はありますが、これはエンドレスに、ずっと利ざやが取れないというわけではないでしょう。いつか銀行の収益マージンは上がってくるしかないわけです。そうすると、日本のメガバンクの利益が倍増する可能性も東京オリンピック・パラリンピックまで、出てくるのではないかと思うんですね。

松本:アメリカでは長期金利が上がるというリスクはあるけれども、一方でそれは金融にとってはプラス、ということですね。

イェスパー氏:はい。金利が上がる=悪い、これはちょっと待ってください。良い金利上昇があること、そのことはぜひみなさまに覚えていただきたいです。なぜイールドカーブは利ざやとれるか。景気が回復しているからです。名目のGDP、名目の可処分所得は回復していて、だからこそ利ざやが取れるわけなんです。これは良いことです。一方、悪い金利上昇は政策のミステイクです。もしFRBが、金利の引き上げを早くし過ぎて、景気にブレーキをかけるような金利操作、バブル崩壊させようというようなことを、新しいFRBがするでしょうか。しないと思います。だから、来年の相場は業績相場プラス流動性相場が引き続くと、世界株にとっては強い環境ではないかと思います。

松本:あまりリスクがないってことですね。

北朝鮮はリスクとなりうるか

松本:地政学的なリスクはどうでしょうか。

イェスパー氏:地政学的なリスクという意味で2017年は非常に大切な年でした。間違いなく北朝鮮のことがあります。ただ、新しいリスクファクターとしては、みんな織り込んでいるわけです。いま北朝鮮が何かして新しいリスクになりますか。トレーダーとかインベスター達は北朝鮮のリスクは慣れていて、織り込んでいるんですね。もちろん戦争になれば、これは東京の地震と同じで影響はあるでしょうが、これも起こらない。よって北朝鮮は新しいリスクにはならないと思います。ひとつのリスクはあると思うのは中国の金融政策です。2017年は中国の政策は金融の引き締め、利上げ、規制強化やっていましたが、財政政策のアクセルは踏んでくれたわけです。もしかしたら、中国の政策が、急に金融政策が緩和方向になるとすれば通貨が安くなります。リスクファクターとしては、中国政策当局の金融政策の透明性が低いことです。アジアの通貨戦争になると一寸先は闇です。メインシナリオとしては、中国が新しく固まった政権になって、とりあえず財政政策でアクセルを踏むこと、そして、中国の銀行システムとかシャドーバンキングシステムはなんとか規制強化しようという方針で行くので、簡単に金融緩和方向に戻るという事ではないと思います。

松本:世界の投資トレンドって変わってきているのでしょうか。

イェスパー氏:今、世界中のおける現金保有比率が高まっています。海外投資家の年金基金、政府ファンド、投資ファンド、個人投資家もみんなそうなんですけど、現金残高比率は非常に高いです。これまでは、地政学的(ジオポリティックス)リスクや、トランプはどうなるかとか、投資への違和感がけっこうあったわけですが、その違和感がなくなってきて、パフォーマンス的には、「キャッシュ(現金)・イズ・キング」から「株・イズ・キング」、そこに戻ってくるんではないかと思います。

松本:いい相場だったのにしっかりインベストできてなかった、という感じだったんですね。それがまたちょっとかわってくるんじゃないかということですね。

イェスパー氏:米国の根本的な話をしますが、ウォーレン・バフェットのようなバリュー投資家も株価は高いんじゃないか、PERが20倍とか21倍とかあるから、と思っています。でも相場は伸びている。これはなぜかというと根本的な購買力は非常に強い。じゃあ、政策ミスは何か起こっているか、地政学リスクは何か起こっているか、というのは実は、上場企業にはほとんど影響はないです。なぜなら2017年のひとつのテーマは貿易戦争でした。トランプ氏はメキシコとの国境に壁を作りましたか?作ってないですよね。トランプの劇場は劇場であると。現実世界では、中国は米国の競争相手になりました。だからこそ貿易戦争になるってことはないだろうと。上場企業や多国籍企業に対してブレーキを掛ける政策にはならないわけです。

ビットコインについて

松本:ビットコインについてはどう思いますか。

イェスパー氏:これは面白い。間違いなくブロックチェーンは金融、あるいは世界の貿易の未来なんですね。方向性は決まったわけなんです。車と同じで、将来はガソリン車でなくて、電気自動車になると決まったようなものです。問題はいつかということと、だれが世界のスタンダードを作るかということです。これは今ビットコインばかりが話題になっていますが、来年に向けてどこかに信頼できるコンペティターが出てくるんじゃないかと思います。

松本:ビットコインみていて思うのは、ボラティリティ高いじゃないですか。それがある意味普通のマーケットにとってのガス抜きになってるんじゃないかと。プラチナとか案外安いですよね。投機的なお金が向かうコモディティとかから、資金がビットコインに流れたので、昔からあるようなマーケットが上がりすぎちゃってはじけるみたいな、逆にならずに済んでいるなんて側面のあるのかなって見ていますね。

イェスパー氏:(ビットコインは)トレーダーの天国なんですね。バリュエーションをつけられるでしょうか。

松本:バリュエーションはないですね。ダイヤモンドと一緒だから。

イェスパー氏:わからないです。ダイヤモンドは50年間の歴史であって信頼感でプレミアムを付けたわけですが、ビットコインの信頼感はいまのところはまだまだない。今後、ビットコインのエコシステム、ブロックチェーン全体の信頼感は間違いなくて上がってくるしかないと思います。

松本:これからってことですね。

個人投資家が取るべき投資戦略

松本:個人投資家はどういうポートフォリオを組むべきでしょうか。

イェスパー氏:リスクが恐くないようなポートフォリオを作るべきです。とくに日本では配当利回りがすごく高いです。預金も利息はゼロ、債券もほぼゼロで、社債も1%未満です。だからこそ配当利回りが2%近いので日経平均やTOPIXには安心して投資ができるのではないかと思います。

松本:株が2%でJ-REITが4%近くあるので、どう考えてもいいですよね。

イェスパー氏:2018年の投資家のテーマはリスクテイクなんです。どういうリスクかというと、安全安心からはじめましょう、と。これは配当のことです。四半期あるいは年一回ちゃんと口座に振り込んでくれる配当のことであって、これが正しい投資戦略だと思います。ただ、いま、配当所得はあまり必要がない20~40代はどうするべきか。これは間違いなく日本の中小型への投資が良いです。日本の中小型株は世界一割安感があります。プラス日本の中小企業は名目売り上げが伸び始めている。収益の透明性がでてくる。世界の舞台ですごい競争力がある。プラス、日本国内マーケットはM&Aのブームがもっとスピードアップすると思うので、間違いなく中小型のプレミアムが出てくると思います。

松本:2017年は、TOPIXは何%上昇でしたっけ。

イェスパー氏:だいたい19%ですね。マザーズとかのボラティリティも高いです。米国の中小型のPERは30~35倍。日本で同じインデックスで作ったとすると、今16倍。信じられない。半分ですよ。日本の中小型株の競争力はいま戻ってきました。海外でビジネスをやろうという自信は日本で出てきたと思います。

「日本のお寿司屋のお任せコースは、特別な料金はとらない」

松本:ETFの魅力はなんでしょうか。

イェスパー氏:個人投資家は、まず2つの事を考えないといけないんです。Fear(怖さ、不安)とFee(手数料)です。怖い、つまり株価は下がるとあまり買いたくはない。でも実は、下がると買うべきなんです。歴史的に見てもそうです。不安という意味では、バブル崩壊の経験があり、株価が上昇すると、いつか下落するのではという不安感が常に高まってしまうということもあるが、これも日本人が乗り越えなければならない事なんです。2つ目はフィー、手数料です。いわゆるコストはどれくらいですかということをもっと意識するべきです。年間コストが2%であると、毎年の配当利回りで補えるでしょうか。だから、(取引手数料が実質無料である)マネックスのゼロETFが魅力的であるということになるわけです。

松本:そうだね。

イェスパー氏:そうだよ。そして、ETFは上場しているので、いつでも売買ができる流動性があり、構成銘柄の中身が何であるかということがいつでもわかる透明性があるんです。アクティブな投資信託を買うと、買っている商品の中身は何かとなると、うちの偉い専門家に「お任せ」となるわけですが、これに大きなコストが発生します。例えば日本のすし屋にいって、お任せコースで特別な手数料とるでしょうか。とらないですよね。この日本のおもてなし、専門家が選んだ理論的なポートフォリオを作って、これをお任せコースみたいに安価に提供しているのがスマートベータETFであるというわけなんです。

松本:ETFは今、機関投資家も使っていますが、個人投資家にとってETFって特別な意味ってあるのでしょうか。

イェスパー氏:面白い質問ですね。機関投資家がなぜ使っているかというと、流動性が重要だからです。戦略的なことを考えると、例えばインドの株。インドが魅力的でオーバーウェイトにしましょう、となった場合。銘柄は難しくて選べません。だから専門家が銘柄選定のルールを作って投資している商品であるETFを買ってしまおうという事なんです。当社のウィズダムツリー・インド収益ファンド(EPI)は世界的に見ると非常に人気があるETFです。中南米の国家ファンドはよく使っているんです。個人投資家のメリットで言えば、ETFの構成銘柄がどういうポートフォリオになっているかという透明性があるところです。何を買うかわかるということですね。プラス手数料が低い。コストパフォーマンスはすごく魅力的だと思います。

松本:機関投資家が買っているETFと個人投資家が買えるETFは同じですよね。

イェスパー氏:そうです。全く同じです。

松本:機関投資家、例えば中東の政府ファンドは投資信託を買いませんよね。

イェスパー氏:そうです。世界の舞台でETFの透明性は非常に高いです。ベータ(インデックス型)かスマートベータのETFへの流入があって、アクティブなファンドはどうしても流出がある。これは、何年も連続して起こっている現象です。

松本:機関投資家が買うのと同じセレクションとかクオリティとコストのものを個人もそのまま購入することができるわけですね。

イェスパー氏:そういうことです。投資戦略のことでいうと、たとえば、ある中小型でシマノとかの商品がわたしは大好きです。新しい技術が発達して魅力的であるので、個別の銘柄を買ってしまう。もう一つは、テーマ投資。新興国のインドをどう考えるべきか。いま10%下がったままであれば、中長期には買うべき。でもどうやって買うかという事であって、インドの個別銘柄を知っていますか。わからないですよね。だからこそ、専門性があるETFを買って、安全安心の投資戦略をとれるわけです。

松本:自分が個人として、細かいところがわかりにくい中小型であるとか海外の会社であるとか細かいところのセレクション(銘柄選択)は専門家にまかせてETFでやる。しかもETFだから機関投資家と同じようなコストだし、っていうのがいいんじゃないかと。大きいよくわかる、みずほ銀行を売買したいとかトヨタ自動車を売買したいとか、それはご自身でどうぞと。細かい小さいのとか海外のとかはETFいくのがいいじゃないですか、そんな感じですね。

ETFの今後は?

松本:ETFの今後についてイェスパーさんはどうお考えでしょうか。

イェスパー氏:まず二つありますが、ひとつは中国の民間企業、中国の未来があるわけです。でも中国の問題は共産党、命令経済。公益法人が多いじゃないですか。でもアリババは優秀な経営者ですのでアリババには投資したい。民間企業には投資したい。当社は2018年2月から公益法人を抜いた中国企業のインデックスに連動するETFを日本国内でも売買できるようにします。これはマネックスのゼロETFに入る予定です。民間経営者の中国人はすごくパワーがある。この会社には投資したいです。実はブラジルにも公益法人も多いです。時価総額の3割くらいは公益法人なんです。これらを除いた新興国の自由な経営者に投資するETFも同時にローンチしますのでこれは大きなテーマになるんではないかと思います。

松本:これは個人で直接は買えないですよね。

イェスパー氏:アリババはどうぞ。アリババだけにするとちょっとなぁ、というとこであれば、今紹介したETFは2018年にむけて一番面白いことではないかと思います。グローバル的なちょっとわかりづらいとか見づらいとかテーマ投資で国別、あるいは新興国の自由経営者、そういうような戦略で行くべきだと思います。

2018年に向けてメッセージ

イェスパー氏:KKK:高成長・規制緩和・金融政策、その3つテーマで流動性相場は引き続くということです。業績相場の上にはそう簡単には政策当局はブレーキをかけないという自信が必要だと思います。
(終わり)

日経平均4万円!?超強気派に松本大が訊く (前編)

 

イェスパー・コール 氏:ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 最高経営責任者(CEO)

2015年7月1日、ウィズダムツリー・ジャパンの最高経営責任者(CEO)就任。
これまで20年にわたり、米大手投資銀行のJ.P.モルガンやメリルリンチなどにおいてチーフストラジスト、調査部長を歴任し、常に日本におけるトップクラスのストラテジスト、エコノミストとして認識されてきた。日本政府の各種諮問委員会のメンバーを務めた実績を持ち、経済同友会の数少ない外国人メンバーである。また、日本語による著書には、「日本経済これから黄金期へ」、「平成デフレの終焉」がある。1986年来日当初は、国会議員の補佐を務める。
ジョンズ・ホプキンス大学の高等国際問題研究大学院にて国際経済学修士を取得。東京大学・京都大学での研究員の経験を持つ。

松本 大(まつもと おおき):マネックス証券 代表取締役会長

1963年埼玉県生まれ。1987年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資でマネックス証券株式会社を設立。2004年にはマネックスグループ株式会社を設立し、以来CEOを務める。マネックスグループは、個人向けを中心とするオンライン証券子会社であるマネックス証券(日本)、TradeStation証券(米国)・マネックスBOOM証券(香港)などを有するグローバルなオンライン金融グループである。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカード、株式会社ユーザベースの社外取締役も務める。