金融テーマ解説

配信日:2018年6月29日

チーフ・アナリスト 大槻奈那が、毎回、旬な金融市場のトピックについて解説します。市場の流れをいち早く把握し、味方につけたいあなたに、金融の「今」をお伝えします。

大槻 奈那

大槻 奈那(おおつき なな)

東京大学文学部卒、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA取得。
スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ等の金融機関でリサーチ業務に従事、各種メディアのアナリスト・ランキングで高い評価を得てきた。2016年1月より、マネックス証券のチーフ・アナリストとして国内外の金融市場や海外の株式市場等を分析する。
現在、名古屋商科大学 経済学部教授を兼務。東京都公金管理運用アドバイザリーボード委員、貯金保険機構運営委員、財政制度審議会分科会委員。

「日経平均3万円への道」アップデート:リスクはどこまで顕在化するか

● 3月に日経平均3万円達成に向けてのリスク要因を整理した。その時点では、円高などによるセンチメントの悪化が懸念されたが、足元では世界経済には不確実性が高まっている。

● 現在市場で懸念されているのは、米中貿易摩擦と新興国リスク。しかし、国の基礎的な力が改善していることから、これらが市場にショックを招くシナリオは考えにくい。

● 国内では、企業のIT活用による効率化等で利益拡大が続く。物価上昇率の失速が株価の重石になっている。しかし、むしろ金融政策維持で円安になれば企業収益や株価にプラス。株価は今期後半には持ち直しに転じるだろう。

現在、日経平均3万円達成の時期を「2019年度中」と予想している。年初に、1年程度達成時期を延期したが、これは主に、これまでのトレンドと異なる円高の動きや、市場センチメントの悪化などが見られたためだ。

しかしそれ以降、海外経済にはさらなる懸念材料が出てきた。米中の貿易摩擦による中国経済の失速、新興国の通貨下落などである。これらを受けて、市場のセンチメントの回復に時間がかかっている。

半面、海外の懸念材料は、以下の通り、本格的な市場のショックを招くとも考えにくい。今年度後半にはこれらの要因が落ち着く可能性が高いと考え、3万円達成の時期は「2019年度中」に据え置く。

1)米中貿易摩擦による中国経済失速

中国上海総合指数は、年初から約2割下落している(図表1)。最大の背景は、米中貿易摩擦である。追加関税は7/6から段階的に発動される予定で、両国の綱引きが続いている。

しかし、現時点の米中の追加関税提示条件を見る限り、双方の景気を減速させるとしても、世界的なショックに繋がることはなさそうだ。まず、中国が提示している対米追加関税は、米国のGDPに殆ど影響を与えないだろう。一方、米国の追加関税の、中国のGDPに対する影響度はもう少し大きいが、それでも0.1~0.3%程度という見方が一般的である。中国政府の今年の成長見通しの6.5%に比べるとやはり小さいし、金額にして1.5~4.5兆円程度に留まる。

一方、中国では、内需の減速という懸念材料も台頭してきた。6/14に発表された5月の小売総額は、引き続き前年から+8.5%増加したものの、市場予想からは大きく下振れた。接待規制が再度厳しくなったことで飲食店の売り上げなどが減速している。

しかし、ネット販売や不動産投資など、局所的にはまだまだ活況が続く。ネット通販売上高は前年比30%台の拡大が続いている。住宅価格は、主要70都市中61都市で4月から5月にかけて上昇しており、大都市以外の、二線、三線都市を中心に伸びが加速している。住宅の資産効果で、個人消費の消費は底堅い。また、7/5から銀行の預金準備率が引き下げられることで、市中に約12兆円が放出され、内需を活発化するとみられる。

2)新興国リスク

新興国の状況はもう少し深刻である。トルコやアルゼンチンなど、一部の新興国通貨の年初来下落率は、2割を超える(図表2-1, 2-2)。ブラジル、トルコ、インドなどの大国では過去に比べれば、経常収支や外貨準備はマシになっている。このように、国の基礎的な力が改善していることから、今のところ市場の動揺はさほど大きくない。しかし、過去の通貨危機のトラウマがあるだけに、いよいよ危ないとなれれば投資家は一斉に新興国売りに転じるだろう。

新興国の海外債務は過去最高に達しており、リーマンショック以降3倍弱に膨れている(図表3-1,3-2)。これらの資金が流出し始めたら、新興国では一気に国内金利が上昇し、政府、民間ともに資金繰りが悪化するだろう。

ただ、今のところこうした新興国売りのトリガーとなるようなイベントは想定できない。米国の金利引き上げは極めて緩やかで、しかも、発表前から様々な形で市場と対話を図り、事前に消化させている。来年からは米国の利上げペースも鈍化するとみられることから、新興国が市場にショックを引き起こす可能性は今のところ高くないだろう。

当面の見通しと「日経平均3万円」達成への道のり:
大きなショックなく日本のインフレ率低下で、円は低位安定へ

一方、国内では、金融緩和の長期化が確実になってきた。2月以降、物価の上昇がスローダウンしている(図表4)。6/14-15の日銀の政策決定会合でも、現在の物価上昇率は「ゼロ%台後半」に下方修正された。

低インフレに陥った理由について、日銀の黒田総裁は、デフレ・マインドが残っていることが主因としている。これが正しいとすれば、心理面に働きかけるようなニュースが必要だが、なかなか足元では見あたらない。既に雇用も高止まりしており、賃上げも一服した。ボーナスが増加しても一時収入であるため、さほど物価の上昇には効かない。メルカリなどのフリマや様々な物品のシェアリングがにぎわう。しかも、株価は不安定で、不動産価格上昇の加速も考えにくいため、個人消費への資産効果は期待しにくい。

しかし、金融政策の正常化が遠のくことで、為替が円安に向かいやすいことは朗報である。国内外の景気は拡大しており、デジタライゼーションによる効率化で経費率も低下する。借入コストも一層低下するとみられる。このため、企業収益は期初時点で今期も増益が見込まれている(図表5)。金融緩和継続が確実な中、円安に振れれば増益幅はさらに拡大するだろう。

現在、海外経済の不透明感や、国内の物価の失速が一時的な株価の重石になっているが、米中の貿易摩擦は、米国の中間選挙までには落としどころが見えるだろう。また、米国の利上げは来期から減速するとみられ、新興国への影響も消化されるだろう。これらの点から、株価は今期後半には持ち直しに転じると予想する。

(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。

レポートをお読みになった
ご感想・ご意見をお聞かせください。

コメント一覧へ

口座開設はこちら(無料)

口座開設の流れについて

当社の口座開設・維持費は無料です。口座開設にあたっては、「契約締結前交付書面」で内容をよくご確認ください。

国内上場有価証券取引に関する重要事項

<リスク>

国内株式および国内ETF、REIT、預託証券、受益証券発行信託の受益証券等(以下「国内株式等」)の売買では、株価等の価格の変動や発行者等の信用状況の悪化等により元本損失が生じることがあります。また、国内ETF等の売買では、裏付けとなっている資産の株式相場、債券相場、金利水準、為替相場、不動産相場、商品相場等(これらの指数を含む。)や評価額の変動により、元本損失が生じることがあります。信用取引では、元本(保証金)に比べ、取引額が最大3.3倍程度となる可能性があるため、価格、上記各指数等の変動、または発行者の信用状況の悪化等により元本を上回る損失(元本超過損)が生じることがあります。

<保証金の額または計算方法>

信用取引では、売買金額の30%以上かつ30万円以上の保証金が必要です。

<手数料等(税抜)>

国内株式等のインターネット売買手数料は、「取引毎手数料」の場合、約定金額100万円以下のときは、成行で最大1,000円、指値で最大1,500円が、約定金額100万円超のときは、成行で約定金額の最大0.1%、指値で約定金額の最大0.15%を乗じた額がかかります。ただし、信用取引では、「取引毎手数料」の場合、約定金額が200万円以下のときは、成行・指値の区分なく最大800円が、約定金額200万円超のときは、成行・指値の区分なく最大1,000円がかかります。また、「一日定額手数料」の場合、一日の約定金額300万円ごとに最大2,500円かかります。約定金額は現物取引と信用取引を合算します。(非課税口座では「取引毎手数料」のみ選択可能ですのでご注意ください。)単元未満株のインターネット売買手数料は、約定金額に対し0.5%(最低手数料48円)を乗じた額がかかります。国内ETF等の売買では、保有期間に応じて信託報酬その他手数料がかかることがあります。国内株式等の新規公開、公募・売出し、立会外分売では、購入対価をお支払いただきますが、取引手数料はかかりません。

<その他>

お取引の際は、当社ウェブサイトに掲載の「契約締結前交付書面」「上場有価証券等書面」「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」を必ずお読みください。

情報提供に関するご留意事項

本情報は、マネックス証券株式会社(以下「当社」といいます)が信頼できると考える情報源から提供されたものですが、当社はその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。本情報は有価証券やデリバティブ取引等の価値についての判断の基準を示す目的で提供したものではなく、有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。本情報に含まれる過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
本情報は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更または削除されることがございます。
当社は本情報の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。なお、本情報は当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。内容に関するご質問・ご照会等にはお応え致しかねますので、あらかじめご容赦ください。