第 8 回 日本の資源会社は加工業?!

投資をするなら、個別銘柄に投資をしたいと考える方も多いはず。
個別銘柄投資をするなら、知っておきたい、業種別アプローチの考え方を紹介します。業種別に見るべき視点や考え方などをご紹介します。
コラム執筆:『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』の著者 長谷部 翔太郎氏(現在は更新しておりません)

第 8 回 日本の資源会社は加工業?!

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』の著者の長谷部翔太郎です。第8回となる今コラムでは、「資源関連」業界を取り上げます。資源とは、具体的には石油や非鉄金属を指します。石油はプラスチックや燃料用のガソリンに、銅、ニッケルといった非鉄金属はエレクトロニクスをはじめあらゆる工業製品に、それぞれ使用されています。現代生活において必要不可欠な素材となっていますが、最近は価格高騰でより注目を浴びることが顕著でした。ちょうど、5月以降、原油など商品相場の変動が再び激しくなってきています。これを機に、この業界への投資戦略をおさらいしておきましょう。

実は極めて厳密に言うと、日本において純粋な「資源会社」と言えるものは数社しかありません。石油会社のほとんどは原油を自ら掘り出すのではなく、外部から購入して石油製品(ガソリンやナフサなど)を生産・販売する石油精製会社というのが正確であり、非鉄会社のほとんども鉱石を採掘するのではなく、鉱石を買ってきてその製錬事業を行っているのが実態だからです。いずれも自前の資源(油田や鉱山)を持っていないか、持っていても小規模に過ぎず、基本的には原材料を外部から調達して加工する事業業者という位置づけにあります。そして、加工マージン商売である以上、資源価格の変動そのものは収益的には本来中立要因となります。

資源会社は「天然にある原料をそのまま供給する会社」であり、掘っている資源の価格変動が大きく収益に直接影響するという特性と比較すれば、明らかにそれとは異なる性格にあると言えるでしょう。むしろ、今や日本では商社の資源会社化が顕著なのです。ただし、これについてはまた別の機会にまとめてみたいと思います。

それでも、石油・非鉄業界が資源関連として注目されるのは、株価には資源価格の動向(主な指標となるのは、石油ならばWTI、非鉄の場合はロンドンLMEの市況)が大きく影響するために他なりません。これは、加工マージンも資源の需給動向によって増減する傾向にあるうえ、資源価格上昇局面では在庫評価益が発生して期間業績を牽引することが多々あるからです。

また、近年は精製、製錬プロセスにおいても、得意の技術力によって契約基準以上の実収量を確保し、その分に関しては市況上昇効果をフルに享受できる構造となってきました。海外の鉱山や油田に少数株主として出資しているケースも多く、それらの持分法損益は年間営業利益の何割という規模にまで拡大してくるなど、徐々に資源価格そのものが何らかの形で業績面に影響を与える構造へと変化してきています。「純粋な資源会社」とはまだまだ言い難いのですが、着実に「純粋な資源会社」化が進行していると言えるのです。したがって、この業界の投資戦略は当然、商品市況にリンクした順張りということになります。

ただし、その商品市況そのものは新興国における需要の増加(期待)に世界的な低金利を背景とした投機マネーの流入から、かなり荒っぽい値動きが続いており、先行きが読み難くなっています。バブルを懸念する声もあるほどです。しかも、最近は商品のETFが組成されたり、現実に商品そのものを保有することも困難ではなくなってきました。敢えて資源会社の株式を取得しなくても商品への直接投資が可能となり、それがまた商品市況変動の振幅を大きくさせる要因となっています。

その結果、近年の資源業界の株価は商品市況をアンダーパフォームするケースが出始めてきました。資源の先行きに投資するのであれば、わざわざ(経営や財務なども影響してしまう)資源企業の株式を通してではなく、商品を直接売買した方がより簡単で効率的だからです。金価格が上がると思えば、わざわざ産金会社の株を買う必要はなく、金地金をそのまま買えばよい、ということです。投資戦略を考えるうえで、資源業界の抱えるこの問題は非常に重要です。

例外もあります。資源価格の動向そのものにインパクトを与えることのできる企業の株価は、その影響力の大きさ、保有埋蔵資源の価値拡大が評価され、商品市況をアウトパフォームすることがあります。しかし、日本の資源会社は残念ながら保有資源規模がまだまだ小さく、世界的なメジャープレイヤーにはなりきれていません。商品市況に影響を与えるほどの力はなく、むしろ受け身の対応を取らざるを得ないというのが実状と言えるでしょう。

この状況を打破するには、世界のメジャープレイヤーに名乗りを上げるべく、大きな資源開発を矢継ぎ早に展開するという川上作戦か、商品市況以上の付加価値創造を求めてさらに加工度を加えるという川下作戦か、のどちらかに焦点を絞って経営資源を投入するしか手はありません。特に、川下作戦は1980年代の円高以降、各社が注力してきた手段でもあります。現在はあまりにも資源価格の動向に振り回されている感が否めませんが、各社ごとの戦略の違いを見ながら、商品市況への順張り戦略に濃淡をつけることをお勧めしたいと思います。


コラム執筆:
長谷部 翔太郎
証券アナリスト。日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Instititional Investors 誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開。著書は、

『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を知っている』

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