投資をするなら、個別銘柄に投資をしたいと考える方も多いはず。
個別銘柄投資をするなら、知っておきたい、業種別アプローチの考え方を紹介します。業種別に見るべき視点や考え方などをご紹介します。
コラム執筆:『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』の著者 長谷部 翔太郎氏(現在は更新しておりません)
みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』の著者
の長谷部翔太郎です。大震災から早くも季節が一つ過ぎようとしていますが、被災された方々の困難は如何ばかりかと推察いたします。震災からの復旧、復興はそういった方々を一刻も早く安心させ、かつ大打撃を受けた日本を再生・飛躍させる喫緊の課題となっています。そこで9回目となる今回は、復旧・復興には必要不可欠なインフラの基礎素材の一つである鉄鋼業界に焦点を当てて、投資戦略をまとめてみたいと思います。
鉄鋼株といえば、典型的な「逆張り銘柄」と言っても過言ではありません。業績が悪くPERが高い時こそ買い場であり、それとは逆に割安に見える時は売りの機会を探らなければいけないのです。これは、鉄鋼が稼働率に左右される景気循環業種であるために他なりません。大規模設備を擁する鉄鋼は固定費負担が重いため、稼働率次第で業績は大きく変動します。
景気のよい時は、需要増加から数量増、稼働率上昇となり、業績も絶好調となるために、その時点の業績、あるいはそれを基点とした業績見通しを基準とすれば、PERも非常に割安に算出されてきます。
しかし、景気はどこかで必ずピークアウトするものです。いいえ、業績が絶好調であればあるほど、ピークアウトの手前にあると言ってもよいのです。ですから、業績が好調でPERの低い時こそは実は利食いの好機となるのです。逆に、リストラや設備廃棄などが新聞紙面を賑わし、業績が青息吐息で、もうこの産業は終わってしまったのかというくらいの雰囲気になったときは買いの好機になります。鉄鋼需要が消失することはまず考え難く、そしてやはり景気はボトムアウトするのですから。
近年、特に注意を要するのがグローバルな流れです。かつてのように旺盛な内需が期待できない今は、アジアの鉄鋼需要がむしろキーワードとなっています。景気敏感と言った場合、かつてそれは日本の景気を対象にしていたのですが、直近ではこれがアジアに置き換わったと言ってよいでしょう。アジアの新興国では鉄鋼需要の急拡大が著しい一方、設備投資も急で、中国では既に供給能力過剰といった状況にあり、景気の動向が鉄鋼需給の振れ幅を大きくしているのです。2006年前後には新興国関連として鉄鋼株が大相場を演じたのは記憶に新しいですが、これはこのときはまだ新興国が供給能力不足であったことで日本企業が多大な恩恵を受けることができたためです。
しかし、今はむしろ能力過剰状態にある以上、当時のような追い風を期待することはできません。それ以上に、新興国から溢れ出てくる安価な製品との競争激化は既に懸念事項になってきているのです。日本企業は自動車向けなどの高級鋼で世界をリードする立場にありますが、圧倒的に市場規模が大きい汎用品の価格動向に高級品が振り回されるリスクは大きいのです。鉄鋼最大手の2社、新日本製鉄と住友金属工業がこの3月に経営統合に踏み切ったのは、そういった危機感がさせたものでしょう。
なお、鉄鋼業界は生産拠点の海外シフトがそれほど簡単ではありません。初期投資費用には数千億円が必要となるうえ、一種の防衛産業でもあることから、相手国政府の合意も得難いものがあります。当然、産業の基礎素材であるため、相手国政府は自国の資本で産業育成を図りたいといった思惑もあるのです。日本企業は、新興国製品への対抗、また新興国需要の取り込みを念頭に海外生産を視野に入れていますが、現状は相手国企業との合弁、しかも少数株主という立場を余儀なくされています。このことは高級品製造のノウハウが流出しないというメリットもありますが、コスト競争においては厳しい戦いを強いられるということにもなります。業界再編が起こってきた背景には、そういった事情もまたあるのです。
ともあれ、国内であれ新興国であれ、景気循環は避けられません。そして、株価はそれに先んじて変動が予想されます。したがって、常に景気の転換点を予測しておくことが重要です。当然、そんなことはプロのエコノミストですら難しいのですが、あらゆる論調が強気一色(あるいは弱気一色)となってきた状況では、一歩立ち止まって冷静に考えてみることが必要です。転換点は実はすぐそこまで来ているのかもしれませんから。その際はぜひ「数量」に注目してください。「増産」や「減産」といったニュースは日常耳にすることができます。何年かぶりの増産(減産)となれば、当然、それは転換点を示唆している可能性が高いといえます。
最後に、震災後の復旧・復興需要への期待について触れておきましょう。もちろん、これらにより鋼材の需要は拡大すると考えられます。ただし、阪神大震災の時もそうでしたが、実需として顕在化してくるのは、震災発生から半年~1年後からと予想されます。復興計画が決まり、被災された方々が落ち着いて家を建てようと思い始めるのには、やはりそれくらいの時間が必要なのです。今回は規模が大きく、また政府も混乱している分、もう少し時期は遅れるかもしれません。さらに、数量増はあっても、被災地・被災者の負担を考えれば値段は相当に抑制されると考えるべきでしょう。増産が収益寄与するのは当然ですが、値上げ効果に期待はできない分、爆発的な利益計上は想定し難いものがあります。むしろ、復興後の産業再生によって鉄鋼需要が創出されることの方に期待したいと考えます。
コラム執筆:
長谷部 翔太郎
証券アナリスト。日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Instititional Investors 誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開。著書は、
『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を知っている』
『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』その他多数
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