2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
投資信託の「毎月分配型」の販売が急増しているようです。日経新聞によれば、8月の販売額は1兆円超え、追加型投信の6割以上をのシェアになったとのことです。中でも、ブラジルやロシアのような高利回りの新興国の債券を使った運用をする商品が人気になっているとか。
毎月分配型商品については、以前も話題に取り上げたことがありますが、国内の低金利が続く中、高金利商品として人気があるようです。
外貨預金と毎月分配型投信
http://lounge.monex.co.jp/column/shisan/2006/04/07.html
そんな毎月分配型投信を購入している方に、私は3つの心配をしています。
<心配1>「高金利=高利回り」とは限らないことを理解しているか
毎月分配型イコール高金利と思っていないかが、まず心配です。
毎月分配型というと、毎月の利回りが約束されているように錯覚しがちですが、投資信託ですから分配金はおろか元本の保証もありません。円の定期預金のように元本が確保されている商品とはまったくの別物です。
せっかくの高金利も為替で相殺されることがあり得ます。実際、先物(フォワード)の為替マーケットでは、高金利通貨は、金利分だけ為替レートが安くなるように裁定されます。例えば、豪ドルと円の金利差が5%あったとすると、現在もし1豪ドル=80円であれば、1年後のレートは約5%円高の76円前後で取引されます。高金利だからという理由で外貨投資を始めるのは、為替リスクを考慮していない、誤った考え方です。
このような商品では分配金額に目がいきがちですが、分配金だけではなく基準価額の動きもチェックしておく必要があります。
<心配2> 毎月の分配金が必要ないのに受け取っていないか
毎月分配金を受け取れるのは、何だかおトクなように思えますが、分配金を出せば、その分ファンドの基準価額は下がります。つまりファンドが組み入れている債券の金利収入以上の分配金を出せば、元本が削られていくことになります。
また分配金には通常税金がかかります。使い道の無い分配金を税引き後で受け取り、また別の投資を始めるのなら、受け取らないでファンドの中で運用を続ける方が合理的です。
<心配3> コストをきちんと把握しているか
これは毎月分配型投信に限りませんが、投資商品の選択にはコストが重要な選択基準になります。
投資信託の場合、販売手数料や信託報酬がかかります。毎月分配型商品の場合、外国債券に投資しているのであれば、信託報酬が1%かかれば金利が1%下がることを意味します。
高い分配金だけに注目していると、このような見えにくいコストに気がつかなくなってしまうのです。
■ 積立戦略より取り崩し戦略が知りたい人が増えている
毎月分配型の商品の販売が好調な理由はいくつか考えられます。例えば、みんなが買っているから、店頭で勧められたから、という方もいるでしょうし、高金利だから、とか分配金が毎月あるということに惹かれた人もいると思います。
このような合理的とは言えない理由で購入している方がいる一方で、この毎月分配型商品には個人投資家の隠れたニーズがあるようにも思えます。それは、資産をどうやって取り崩していけば良いのかを知りたい、というニーズです。
20代30代のような資産形成期には、積立を使って資産を構築するのが良いというのは、今や当たり前の認識になりつつあります。しかし、例えば人生の後半期にそれまで積み上げてきた資産をどのように取り崩していったら良いのかについては、わからないという方が多いのではないでしょうか。
「積立戦略」と同じように「取り崩し戦略」も知りたい人はシニア層に多く、そのニーズをある程度代行して満たしてくれているのが毎月分配型商品ではないかという仮説です。
■ 低コストで取り崩しをしてくれる商品へのニーズは無いか
個人的には、現時点で毎月分配型の投信を買うつもりはありませんが、将来資産の取り崩しをする時期になれば、元本が少しずつ現金化していく商品には興味があります。
例えば固定金利の外国債券で、当初10年間は利払いなし、そして10年目から10年間は120回に分けて毎月元利均等で決まった外貨額が受け取れるような商品なら、買ってみたいと思います(世界銀行のような信用できる発行体で、低コストであることが前提です)。
この場合、投資したお金は20年後には全て現金になってしまいますが、定期的な現金化手続きをこの債券が代行してくれると考えることができます。
毎月分配型商品は、特に金融リテラシーの高い個人投資家の方には評判の悪い商品です。確かに、行動心理学的な錯覚を巧みに駆使している部分もありますが、一方でシニア向け金融商品開発のヒントが詰まっている商品にも見えるのです。
読者の皆様(特にシニアの皆様)はどうお考えでしょうか?
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今回の話のまとめ---------
■ 毎月分配型投信は万人に向いた投資商品ではない
■ 高金利=高利回りではないことは理解しておくべき
■ 毎月分配型商品の人気には個人投資家のニーズが隠れている
では、また来週・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
http://www.monexuniv.co.jp/
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