2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
昨日、マネックス証券の動画の収録で、JPモルガン証券のチーフエコノミストの菅野雅明さんのお話を伺う機会がありました。為替から世界経済、日本経済、そして金融政策まで、幅広いお話をたっぷりとお話頂きました。
(収録した動画は、編集の上、来週にはマネックス証券のサイトにアップされる予定です)
その中で、今回特に興味深かったのが日本経済の構造問題と日銀の金融政策について、です。
■ 日本経済の問題は需給ギャップとデフレ
まず菅野さんが日本経済の構造問題として指摘するのが、1990年以降の国際化と少子高齢化に対する対応の遅れです。この政策対応の遅れが、財政赤字の拡大と需要不足からくるデフレという2つの問題を深刻化させた原因という見立てです。
日本の市場の非効率性、改革への消極的な姿勢によって、経済は低迷し、企業は国内の設備投資に消極的になり、家計は将来への不安から消費に対して消極的になる。結果として、需給ギャップはGDP比で4.5%と推測され、これが解消されなければ、デフレからの脱却は実現しません。
■ 日銀はインフレを起こすことができるのか?
デフレから脱却するために、日銀の金融政策に期待する方は多いと思いますが、果たして中央銀行の金融政策だけで可能なのか?菅野さんは冷静な議論が必要だという意見です。
例えば、インフレ目標を例えば2%~4%というように緩やかなインフレに引き上げる、インフレ・ターゲット論です。
もし日銀がインフレ宣言しただけでインフレ率が変わるのであれば、話は簡単です。しかし、緩やかなインフレターゲットは日銀も含め既に世界の中央銀行が実施している方法ですが、効果はあまりありませんでした。
インフレを抑えこむことは金融政策によって可能ですが、デフレの状態を目標値を定めるだけでインフレにすることは出来ないのです。需給ギャップという根本原因を治療しなければ、風邪を引いた人に風邪は治ると暗示をかけるようなものだということです(暗示にかかって治る人もいるでしょうが、その程度ということです)。
また量的緩和という方法も提案されています。これは中央銀行のバランスシートを拡大させ通貨量を拡大させるものです。これも日銀がマネーを大量供給できたとしても、銀行貸出が増えなければマネーは増えません。お金の需要が無いから金利が下がっている訳で、単純な量的緩和ではデフレへの処方箋とはなりません。
さらに、日銀による国債引き受けを行い、財政支出を拡大させるという方法はデフレ脱却には有効ですが、一旦始まると利権が生まれ、財政引き締めに転換することが困難になるというデメリットと指摘しています。
例えば、失業者を公務員として雇用し、日銀がお札を刷って渡せば、デフレ脱却には効果があるかもしれません。しかし、インフレになって財政が悪化したら、公務員になった人をリストラできるかというと、現実には不可能です。つまりデメリットも考えて判断しないと、かえって問題を悪化させるリスクがあるということです。
他の非伝統的金融政策として、政府紙幣発行、日銀による(あるいは間接的な)実物資産の購入、マイナス金利政策などの提案はありますが、現実に政策として実現できるものは限られています。
■ 金融政策の正解を知るのは本当に難しい
現在の世界経済システムの中で、本格的なデフレに直面した国は日本が最初で、日本は「デフレ先進国」とも言える立場にあります。今までの経済学で前提にされていた金融政策というのは、インフレをいかに抑えるのかという方法論でした。とすれば、従来のインフレを前提とした経済学とは異なるアプローチが必要になってきます。
経済学者やエコノミストといった専門家の方でも、意外にデフレ下の金融政策に関して誤解している人が多い、というのが菅野さんのご意見でした。誰の言う事が正しいのか、見極めが難しいテーマですが、1つ言えることは、政策批判をしても現実は変わらないということです。
与えられた金融情勢の中で自分の資産をどうやって守っていくかを考えなければ、資産は殖えません。
■ 株式市場は年末に向けて上昇する?
今回の対談では、米国株式が年末にかけて上昇するのではないかと考える理由や、雇用が増えても失業率が下がらないカラクリなど、エコノミストならではの役立つお話が満載です。
菅野さんには、今後も半年に1回程度ご出演頂く予定です。皆様の投資戦略のための定点観測としてご活用ください。
今回の話のまとめ---------
■ 経済の問題は単純ではなく複雑な要因が組み合わさっている
■ 政策にはメリットとデメリットの総合判断が必要
■ デフレ下の金融政策は、インフレ時とは異なるアプローチが必要
では、良い連休を・・・。
(本コラムは筆者の個人的意見をまとめたものであり、筆者の所属する組織の意見ではありません。)
内藤 忍
株式会社マネックス・ユニバーシティ 代表取締役社長
ツイッター:http://twitter.com/Shinoby7110
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