第 209 回 今、本当に大切なこと

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第 209 回 今、本当に大切なこと

<質問>
震災で大打撃を受けている日本経済ですが、株式の売買は意外にも活況とききました。
こんなときに企業の株式を買うのには勇気がいりますし、不謹慎なのではないかと気が咎めます。今相場に参加するのはよくないことでしょうか。

<回答>回答の前に被害にあわれた方々にご挨拶申し上げます。
今回の大震災で尊い命を落とされた方々の御霊が一日も早く安らかになられることを祈ります。大切な方を喪われた方々がこの悲しみから早く立ち直れるように祈っています。そして、災害に逢われ苦しんでいる方々が一刻も早く正常な生活に戻られるよう祈っています。多くの人々の祈りが力となり、この困難な状態を我々が克服できるよう願っています。

今はまさに「国難」というにふさわしい現状です。もちろん、国の仕組みとして、「ああしておけばよかった」、「こうしておけばよかった」ということはたくさんあります。「あいつが悪かった」、「こいつが悪かった」という議論もあるでしょう。しかし、いま、そんな過去のことを、とやかく言ってみても仕方がありません。

政府も自衛隊も警察も消防も、そして東京電力など関連企業もみな必死に作業をしています。これも完全ではなくても、とにかく一生懸命にやっていることは間違いありません。いい加減に手抜きをして楽をしようという人はいないのだろうと思います。彼らだって間違えることも失敗することもあります。しかし、とにかく必死にやっているのです。彼らを応援こそすべきであって、傍観者のように無用な非難をするべきときではありません。我々が抱えているのは日本全体の問題です。日本に住んでいる全員が当事者です。評論家のような発言は無用です。

とにかくいま、日本国民全体が自分たちのできる範囲で行動をとるべきときです。ボランティア活動も良いと思います。寄付も良いと思います。つまり、自分だけのために行動するのではなく、被害を受けた方のためになる行動をすることが日本を救うことになるのだと思います。

「いまこそ投資を!」と言うと、こんなに苦しんでいる人がいるのに投資の話をするのか。こんなに悲しんでいる人がいるのに「金儲け」を考えているのかという反論がよくあります。そうではないのです。自分が額に汗水たらしてやっと稼いだお金を、いま、おカネを必要とする人のために用立ててあげることが必要です。その方法が投資です。まさに「資金を投げる」のです。

自分一人のことだけを考えリスクを取らず、ひたすら、ちまちまとおカネを貯めているのは「自利」でしかありません。投資によっておカネを必要とする人を助けてあげるのは「利他」です。寄付と同じように、投資も「利他」の精神に根差した行動です。「利他」とは、大切なものを手放すのですから「リスクをとる」ことです。

「いま、株を買ったら儲かりそうだ」とか、「いや、まだ、下がりそうだ」とか、そんな次元の低い話ではありません。苦しみ、悲しんでいる人がたくさんいるなかで、自分の資金を手放し、世の中に流通させることが必要なのです。短期の投資家が恐れおののいて市場を去ってゆく。それを長期の投資家がしっかりと受け止め支える。そうして、日本の企業の価値を維持し、高めていくことが大切なのです。

これから復興のためには巨額の資金が必要となるでしょう。国のレベルでは、復興減税とか、復興国債ということも考えられると思います。多くの企業は、自分で長期安定資金を調達しなければなりません。株式は、本来、長期安定資金調達の手段です。その時に、株式市場が低迷していると非常にコストの高い資金調達となってしまいます。株式市場が盤石であれば、企業の復興もより早くできることになります。

石門心学で有名な江戸時代の思想家、石田梅岩は太平記巻35にでている青砥左衛門藤綱の「天下のために十銭を惜しむ」の話を好んでしたと言います。それはこんな話です。

藤綱が鎌倉の滑川に十銭を落としたのを知って下僕に五十銭を渡し、「これで松明を買ってその十銭を探し出せ」と命じます。それをいぶかった同僚に藤綱は「落とした銭十銭は天下の富である。その銭十文をいま、ここで探さなければ、滑川の底に沈んで永久になくなってしまうだろう。私が松明を買わせた五十銭は商人の家に長く残っていることになる。幸い見つかったので彼と我とで計六十銭で一銭もなくなっていない。これはなんと天下の理ではないか。たとえ十銭が見つからなくても、天下の富、公共の財貨を大切にする心根を失いたくないものだ」と答えたというのです。(森田芳雄著、「天下のために十銭を惜しむ」〈河井出書房新社〉より)

まさに、いまはみんなが自分のおカネにしがみついているときではなく、寄付や投資でおカネを手放し、天下におカネを流通させることが大切な時だと思います。それが、日本経済を支えることになるのではないでしょうか。


コラム執筆:
岡本 和久 ファイナンシャル・ヒーラー(R)

CFA 協会認定証券アナリスト (Chartered Financial Analyst)

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