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<質問>震災に起因する相場の乱高下でひどい損失を受けた投資家がでているとききました。
この震災から日本の個人投資家は何を学ぶべきでしょうか。
<回答>日本は基本的には温暖な気候に恵まれています。国土は美しい自然に恵まれ、樹木と水に満ちています。つまり、基本的な生活環境は砂漠や荒野の国々と比べれば比較にならないほど恵まれています。そして、四季の巡りがとても明確です。恵まれた環境が、春、夏、秋、冬と巡るのです。その季節の巡りに合わせて昔から我々はお祝いをしたり、お祭りをしたりしてきました。
しかし、この穏やかな循環のなかでも時々、ランダムなショックがあります。冬は大雪が降ったり、夏は落雷があったり、秋には台風が来たりします。そして、さらに、季節的なショックとは別に、いつ来るかわからない大きなリスクが日本を襲います。それが今回のような地震や津波などです。
今回の災害から学ばねばならないこと、それは「リスクに対する備え」がいつも必要だということです。今回、被害を受けられた方々が、その備えがなかったという意味ではありません。我々が学ぶこと、それはいつだって「想定を超えた大きなリスクが起こりえる」ということです。金融市場を考えてみても、通常の変動とは異なる、リーマンショックのような出来事が襲ってくることはいつだってあり得るのです。
拙著、「賢い芸人が焼き肉屋を始める理由~投資嫌いのための『和風』資産形成入門」で詳細を述べましたが、我々はともすれば、この基本的に恵まれた環境と、そのなかでの循環に慣れ過ぎています。まさに、「冬来たりなば、春遠からじ」で、何か苦しいことが起こってもじっと我慢をしていれば、いつか状況は良くなると考えがちなのです。しかし、その前提を打ち壊すような出来事が時としてあるのです。
私が以前、勤務していたグローバルな金融機関は世界中100カ国近くで業務をしていました。その企業では非常に細かいリスク管理体制が敷かれていました。「ここまでやる必要があるのかな?」と思うほどでした。あるときトップにその理由を聞いたところ、「世界中で業務をしていると、ひとつの国にとっては何十年に一度というような危機が、年に何回も、世界中のどこかで起こる。だから、どんな小さな兆候でも見逃さないでそれを注意深くモニターしておく必要があるのだ」と言われ納得したことを覚えています。
地震や津波が来るのを止めることはできません。しかし、その結果、発生するダメージをコントロールすることはできます。それが、リスクコントロールです。これは資産運用でも言えることです。災害によって日本株式のリターンが急低下するのはコントロールすることができません。しかし、そのダメージを最小化する、つまり、リスクはコントロールが可能なのです。
例えば東京電力株だけに投資をしていたらダメージは膨大だったでしょう。数銘柄を保有しているなかに東京電力が入っていてもその影響は大きいでしょう。しかし、東証株価指数に連動するETFやインデックス投信を保有していれば、その損害は小さくはないにしろ、東京電力だけを持っているよりは少なかったのです。さらに、株式と共に債券も保有していたとすればダメージはさらに緩和されていました。そして、海外の株式と海外の債券も保有していたらどうだったでしょう。全体の目減りは非常に限定されたものであったはずです。
目先、相場は波乱含みだろうと思います。もしかしたら、調整はかなり長引くかもしれません。でも、間違いなく大きな復興需要が生まれるでしょう。社会インフラも、オフィスビルも、ショッピングセンターも、個人用の住宅も、家具も、家電製品も、自動車も・・・・、すべて灰塵に帰してしまったものが必要とされます。そう考えれば、この混乱期に復興を応援するつもりで資金を投じておけば良いのです。この目先のリスクを取ることが長期リターンの源泉になるのです。
結局、リスクコントロールの王道は変わらないのです。十分に分散されたポートフォリオを、長い期間保有する。このひと言に尽きるのです。目先の株価の動きに目を奪われて、この一番、大切な視点を見失わないようにしたいものです。
最後にリスクコントロールについて印象に残っているお話をしておきます。イザヤ・ペンダサンの「日本人とユダヤ人」にでている逸話です。ニューヨークの高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアに住んでいたあるユダヤ人の話です。宿泊しているのではない、住んでいるのです。その人の財産からすれば郊外に立派な家を持つことだってできるはずです。でも、多額の費用をかけてホテルに住んでいる。理由を聞かれて、そのユダヤ人氏は「ここは安全ですから」と答えたというのです。国賓が泊るこのホテルは常時、市の警察が特別警戒をしているし、シークレット・サービスも見張っています。「だから」、と彼は言います。「安全にはコストがかかります。(中略)自分の生命の安全を第一に考えて、この安全のためには、たとえ他の支出を削るだけ削ったとしても、(ここに住むのは)当然のことではないでしょうか」と。
最初に述べたように、日本は環境に恵まれた国です。それだけに、そこに潜むリスクを忘れがちです。「いずれ良くなる」と根拠なき楽観を持ちがちです。リスクは将来に対する備えです。命にはかかわらないかも知れませんが、いま、ほとんどの人は退職後の資金をどうするかというリスクを抱えています。これは、我慢していればいずれ「春がくる」という性格のものではありません。退職後の生活を支えるために、いまから、長期的な視点で備えをしておくことが、実は人生の大きなリスクヘッジであること、これは今回の震災から我々がすぐに学ぶべきことだと思います。
コラム執筆:
岡本 和久 ファイナンシャル・ヒーラー(R)
CFA 協会認定証券アナリスト (Chartered Financial Analyst)
I-O ウェルス・アドバイザーズ株式会社 代表取締役社長ウェブサイトはこちら
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