第413回 「ドイツ銀行、中国経済の行方とその日本への影響」

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第413回 「ドイツ銀行、中国経済の行方とその日本への影響」

<質問>

ドイツ銀行、中国経済の行方とその日本への影響はどのようなものがありますか?

<回答>

ドイツ銀行に対する懸念は、米司法省に対する住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売問題を巡る和解金の問題で一気に大きくなりましたが、この問題自体は既にほぼ解消されていると思います。根本的な問題はドイツ銀行に限らず欧州の銀行の収益力の低下が著しく、その代表がドイツ銀行であるという点です。リーマンショック後の様々な規制強化や、収益機会の消失、マイナス金利による資金収益の低下で、欧州の銀行の収益力は大きく低下しています。にもかかわらず、人件費を中心とした固定費は高止まりしていて、経営状態は悪化しています。この根本的な問題は良い方向に向かう兆しが今のところ見られていません。

日本への影響ということで言えば、欧州の金融機関の経営悪化が日本経済に対して直接的な大きな影響を与えることは考えにくいですが、金融機関の経営悪化は金融市場にインパクトを与え、それが間接的に日本の経済や金融市場に影響することはあり得ます。また、日本の個人投資家に対する影響で言えば、昨今の低金利環境下で少しでも高い利回りを得ようとする資金が欧州金融機関の劣後債などのハイブリッド証券にかなりの規模で流入しており、そこに欧州金融機関の経営悪化は直接的に悪影響を与えます。11月には英スタンダードチャータードや独コメルツが劣後債のコールを見送り劣後債の価格が急落し、これらを組入れている投資信託の基準価額が大きく下げました。本来、劣後債などのハイブリッド証券は非常に複雑でそれなりに大きなリスクをとるものですが、リスクが顕在化していないときの安定的な価格推移の提示、為替ヘッジ、償還日の定められた単位型という仕組みによって、「あまりリスクが高くないのに、そこそこの利回りが期待できる商品」と誤解されて多くの個人投資家に購入されてきました。ひとたびリスクが顕在化すれば様相がガラリと変わるのがハイブリッド証券です。欧州金融機関の経営悪化による悪影響が最も大きく懸念されるのは、私はこの分野だと見ています。

一方の中国についてですが、中国の経済成長は通常の新興国の成長と同様に、ある程度の経済効率に達したところでニューノーマルに移行し、減速していますが、後退はしていません。減速とは時速80kmで走っていた車が50kmにスピードを落とすことで、バックギアに入れて後ろに進むのとは違います。経済成長率とはGDP成長率のことであり、経済が成長するということはGDPの額が前年よりも増えることを言います(物価上昇分を引かなければ名目、引けば実質)。後退の場合、つまりマイナス成長の場合はGDP額が前年よりも減り、減速の場合はGDPが前年よりも増えるペースがそれまでのペースよりも下がることを言います。今の中国のGDP額は増え続けていて、その増えるペースがかつてより下がってきているのです。それはごく自然なことで、1年間に1人当たり10万円しか稼げない国と、100万円稼げる国と、1,000万円稼げる国、では稼げる金額を2倍にする容易さに大きな差があり、中国は10万円しか稼げない国から100万円稼げる国になったというだけのことです。

かつての中国のようなペースでの成長は期待できませんが、相応の成長は十分期待できます。かつてのペースを期待しなければ、十分な恩恵を受けることもできるでしょう。問題は経済成長の中で生まれてきた格差で、これが社会・政治システムを不安定にしかねません。また、民間債務の大きさなど成長の犠牲やひずみも懸念されています。そして、経済的に大きな力をつけたことで他国との間の交渉にも変化が生じています。これらは中国が新たなステージに入ったことで、新たな問題が生じているということでしょう。この文脈で、日本への影響は当然ながら少なからずあり、影響の範囲は多方面に及び、とても一言で言い表せるものではないと思います。


コラム執筆:ジョン太郎

金融業界の様々な分野で経験を積んできた現役金融マン。投資・運用・金融・経済など、お金にまつわるトピックをわかりやすく解説しているブログ「ジョン太郎とヴィヴィ子のお金の話」は人気を博し、各種のサイトで紹介されている。著書に「外資系金融マンがわが子に教えたい「お金」と「投資」の本当の話」、「ど素人がはじめる投資信託の本」、「ど素人が読める決算書の本」がある。

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