第1回 債券市場を知る上での、最重要ポイント 【特集】「今だからこそ、債券や国債のことを知ろう」

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第1回 債券市場を知る上での、最重要ポイント 【特集】「今だからこそ、債券や国債のことを知ろう」

債券市場関係者には、牛熊(うしくま)と呼ばれ親しまれている久保田です。よろしくお願いします。今回から4回に分けて、「今だからこそ、債券や国債のことを知ろう」と題し、個人投資家の皆様に、債券や国債について最近の話題を含めて解説していきます。

2008年のリーマン・ショックや2010年のギリシャ・ショックを経て、現在、日米欧の国債の動向にたいへん注目が集まっています。国債は債券の種類のひとつであり、現在の金融市場のみならず世界情勢を理解するためには、ある程度、債券や国債の知識が必要です。

債券の中で最も発行量が多く、中心的な存在となっているのが国債です。国債の中でも直近に入札された期間10年の国債の利回りのことを長期金利と呼んでいます。この長期金利が現在、欧米市場で過去にないような動きを見せています。日本の長期金利は1%前後で安定して推移していますが、米国やドイツの長期金利は2%を割り込み、過去最低水準をつけています。これに対して欧州の債務危機の発生源であるギリシャの長期金利は20%を超えて上昇しているのです。

ギリシャでは2009年10月に政権交代が行われた際に、前政権が行ってきた財政赤字の隠蔽が明らかになり、これを受けて格付会社が相次いでギリシャ国債の格付けを引き下げた結果、ギリシャ国債は暴落しました。このギリシャの債務問題をきっかけに、ポルトガルやスペインなどの債務も懸念され、それがユーロ全体を揺るがすような大きな問題となったのが、現在も続いている欧州の債務危機なのです。

現在、先進国のほとんどが国債を発行しています。国債とは国の歳出(収入)が歳入(支出)を上回った際に、その差額分を手当てするために発行される債券であり、いわば国の借金です。もし国債の発行がうまくいかなくなると、国の財政そのものが成り立たなくなります。日本は先進国の中でも巨額の債務、つまり国債を抱えています。しかし、2011年度で年間170兆円も発行される国債はいまのところ順調に消化されています。

日本では今年度の赤字国債発行法案がなかなか可決されず、大きなニュースにもなりましたが、これは国債の発行が難しいためとかではなく、ねじれ国会となって法案の可決そのものが遅れたのが要因です。米国でも同様に債務上限法案が可決されずに米国債のデフォルトの危機と騒がれましたが、こちらも同様にねじれ議会が要因であり、米国債への信任は揺らいでおらず、むしろ米国債は買われていました。これは米国の長期金利が低下し続けていたことからも明らかです。

ここで債券市場を知る上で、重要なポイントをひとつ押さえてください。それは「債券の利回りと価格は反対に動く」ということです。つまり、国債が売られると長期金利が上昇し、国債が買われると長期金利が下がるということです。その国債の価格がどこで決定されるかといえば、債券市場です。債券市場は主に巨額の資金を運用しているプロ達が債券を売買している場所です。債券は主に証券会社と生命保険会社などが直接売買しています(店頭取引)。債券市場で決定される価格(利回り)は、経済や物価の動向、さらに日銀などの中央銀行の金融政策などに影響を受けます。

日本や米国、ドイツの長期金利が歴史的にも低水準にあるということは、これらの国の国債に資金が集まっているということになります。これは経済動向などにも影響されている面もありますが、欧州の債務危機などからより安全な資産に資金がシフトしていることが大きな要因と言えます。日本などの国債はそれだけ安全性が高い、つまり信用度が高いと認識されているからこそ、積極的に売買されている債券であるともいえるのです。

しかし、いったいその信用が失われるとギリシャのような状況に陥る懸念は常に存在します。債券市場にとり、債券の信用こそがリスクを計る上でたいへん重要な要因となるのです。格付会社による格付けはその信用力を測るひとつの尺度ではありますが、絶対的なものではありません。(次回に続く)

コラム執筆:久保田博幸

1958年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。証券会社の債券部で約14年間、国債を中心とする債券ディーリング業務に従事する傍ら、1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとしてQUICKなどにコラムやレポートを配信している。また、「牛さん熊さんの本日の債券」と「牛熊ウイークリー」という有料メルマガを配信中。日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『日本国債は危なくない』(文春新書)、『ネットで調べる経済指標』(毎日コミュニケーションズ)、『短期金融市場の基本とカラクリがよーくわかる本』(秀和システム)、『債券と国債の仕組みがわかる本』(技術評論社)など多数

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