マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
トランプ米政権の足元が揺らいでいます。トランプ大統領が、先日解任したコミー前連邦捜査局(FBI)長官の在任中に、フリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)とロシアの関係を巡る捜査を打ち切るよう、求めていたと報じられています。報道によると、トランプ大統領はコミー氏に「フリン氏とロシアの関係に関して、何もしないでほしい」と発言したとされています。フリン氏は、ロシアのキスリャク駐米大使との接触について、ペンス副大統領に虚偽の内容を報告したとして、事実上解任されています。この疑惑に加え、ホワイトハウスでの会談で、ロシア当局者に機密情報を漏らしたと報じられています。これについてトランプ大統領は「大統領にはテロリズムや航空安全対策に関する事実を共有する絶対的な権利がある」とし、過激派組織「イスラム国」への戦いでロシアの取り組み強化を促すために情報を共有したとして、自身の判断は正当との立場を示しています。トランプ大統領は、機密情報であっても、大統領には情報を開示する権限があるものの、今回は同盟国から提供された機密情報を開示同意を得ずに提供したとされる点が問題視されています。このように、トランプ大統領に関する複数の疑惑が一度に持ち上がっており、市場が期待してきた減税やインフラ投資に関する政策の立案と遂行が遅れれば、株式市場にも少なからず影響が出るとの懸念が高まっています。
市場では、「これらの疑惑が晴れなければ、最悪のケースではトランプ大統領の辞任に発展する」といった声も聞かれ始めています。しかし、このような見方が現実のものになる可能性は、過去事例を見ても相当低いでしょう。確かに懸念材料ではありますが、現段階でそれを材料に株価が下げることを前提に投資を縮小することは賢明ではないと考えています。株価形成の根幹は企業収益です。企業収益が大きく毀損するような事態になれば別ですが、現在のように、主要企業の四半期ベースの純利益が前年同期比で14%も増加し、2011年以来の高水準となっています。さらに、S&P500やナスダック指数は過去最高圏にあります。この事実に目を向けることが重要でしょう。もちろん、一部のハードデータに変化の兆しも見られます。特に4月の自動車販売台数は前年比で4.7%も減少し、3月の1.6%減から減少幅が拡大しています。また消費者物価指数の伸びもやや鈍化しており、住宅着工件数も伸び悩んでいます。その一方で、雇用は拡大し、小売売上高も4月は前月比0.4%増と、前月の0.1%増から拡大しました。まちまちな状況ではありますが、現時点で景気後退を懸念するような状況ではないでしょう。もちろん、注意は必要ですが、過度な悲観は禁物でしょう。
今後の注意点があるとすれば、金利の上昇が抑制されている点でしょう。景気拡大への期待感が低いことが背景にあると考えられます。安全資産である米国債から株式への投資資金のシフトの動きはそれほど活発化していないようです。米国株の将来を見極める指標として、米国とドイツの10年債利回りスプレッドを見ておくとよいでしょう。この数年間の動きを見る限り、米国株がピークを付ける前に、このスプレッドがピークアウトしています。直近では米金利が伸び悩んでいることで、このスプレッドは低下傾向にあります。現時点では懸念するような動きではありませんが、今後金利が上昇したあとにスプレッドの縮小が見られた場合には注意が必要でしょう。ただし、その時期はまだかなり先であると考えています。将来の米国株のピークアウトに関する指標としてフォローしておくとよいでしょう。
江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
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