第51回 インフレ率は低水準、拙速な利上げはリスク要因に【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第51回 インフレ率は低水準、拙速な利上げはリスク要因に【ズバリ!江守哲の米国市場の"いま"】

市場では、米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に関心が集まっています。トランプ米大統領がケビン・ウォルシュ元FRB理事、ジェローム・パウエルFRB理事と会合し、次期FRB議長への指名の可能性について協議したと報道されています。これらの会合には選定に携わるムニューシン財務長官も同席したとされており、事実上の面接だったとみられています。トランプ大統領は来年2月に任期を迎えるイエレン現議長について「尊敬しているし、好きだ」と評価しており、続投の可能性も指摘されています。また一時不和が伝えられていたコーン国家経済会議(NEC)委員長も候補者リストに残っているとされています。一方で、FRBの執行部は7ポストのうち、10月に辞任するフィッシャー副議長のポストを含め、4席が空席という異常事態に陥る可能性があります。FRBの信認を維持するためにも、政権は早めに適切な人選を行う必要に迫られています。市場では、新議長の候補者がイエレン現議長よりもタカ派であり、利上げ志向になるとの指摘もあります。

しかし、そうは思いません。人選を行うトランプ政権はドル安を志向しています。そのため、利上げをできるだけ遅らせ、金利上昇によるドル高圧力ができるだけ掛からない政策をFRBに求めるでしょう。さらに言えば、そのような政策を受け入れる候補者が選定される可能性が高いでしょう。このように考えれば、現在の路線が大きく変わるとは考えにくく、引き続き緩和的な金融政策が継続するでしょう。まして、米国は景気の拡大基調を維持させるためには、株高基調の長期化は必須事項です。米国のGDPの7割を占める個人消費の拡大には、家計の金融資産の5割以上を占める株式・債券の価格を押し上げる必要があります。金利が上昇し、債券価格が下落する一方、ドル高が誘発されて株安になってしまえば、元も子もありません。したがって、利上げを志向する人間を次期FRB議長に据えることはないと思われ、次期FRB議長の人選の行方も気にすることはないでしょう。

むしろ、イエレン現議長が最近はタカ派的な発言を行っている点に興味があります。任期切れになる前に、何とか金融政策の正常化を進めておきたいのでしょう。10月からはいよいよFRBの保有資産の圧縮が始まります。この市場への影響をまずは確認すべきですが、それは無視して、利上げのタイミングを模索しようとしているようにみえます。そのためか、市場での12月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は7割を超えています。こうなると、市場が利上げを織り込んだと判断され、FRBは利上げを決断するかもしれません。しかし、FRBが重視する8月の個人消費支出(PCE)価格指数のコアは前年同月比1.3%上昇と前月から鈍化し、2015年11月以来の低い伸びです。これでは、利上げを行う根拠に乏しいと言わざるを得ません。イエレン議長は「インフレ率が2%に戻るまで金融政策を据え置くのは軽率」と、「インフレ率が目標を下回って推移しているのは恐らく一時的」としています。その根拠は何なのでしょうか。しかし、原油価格は依然として低迷しており、近い将来にインフレ率が上昇する兆しは見られません。市場の理解を得られるような利上げの根拠が示されないようだと、利上げは株安につながる可能性があります。このようなリスクがある点に注意しながら、今後の米国株の動向を見ていく必要がありそうです。

20171006_emori_graph01.png

江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「1ドル65円、日経平均9000円時代の到来」(ビジネス社)
「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)

マネックスからのご留意事項

「特集1」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧