第40回 影響力が低下している雇用統計 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第40回 影響力が低下している雇用統計 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

11月14日からスタートした安倍トレードと呼ばれる円安トレンドですが、22日に82.84円の高値をつけてからレンジに入ってしまいました。安倍トレードと囃された円安トレンドは実はたったの8日間。その後レンジに入ってから2週間以上が経過しているのですから、安倍トレードとは一体なんだったのか?!既にその賞味期限は切れてしまったのではないか、というような声も聞こえはじめました。選挙までは円安との見方が大勢であったのに、あっという間に息切れしてしまった背景には、安倍総理の発言のトーンダウンやIMM通貨先物ポジションが5年半ぶりの円売りに傾いているなどのニュースが影響しているとの指摘もありますが、欧米勢がクリスマス休暇に入ってしまったために流動性が低下してしまって相場を牽引するエネルギーが不足してしまっているという側面もあるのでしょう。

煮え切らないレンジ相場に入ってしまったために、先週末の米雇用統計にはレンジブレイクとなるようなサプライズを期待した向きもあったかと思いますが、11月に上陸したハリケーンサンディの影響で事前予想が難しく、NFP(非農業部門雇用者数)の予想レンジが1.5~14.5万人とかなりバラツキが広く期待値は高いものではありませんでした。結局市場のコンセンサスではおおよそ+9万人前後となるだろう、ということで迎えた雇用統計でしたが、発表された数字がなんと+14.6万人。失業率は前回の7.9%から7.7%に改善、ポジティブな内容に日本の政局がらみの円安だけでなく、米国経済回復のドル買いが加わって、さらなる大きな円安ドル高トレンドがスタートするかもしれない、という思惑も広がりドル円相場は瞬間急騰しましたが、ドル買いが走ったのは瞬間だけでその後相場はダレてしまい再びレンジ入り。一体何故でしょうか。

今月はハリケーンサンディの影響で期待値が低かったことで思わぬ好結果に瞬間ポジティブに反応してしまったのですが、冷静に考えてみれば+14.6万はそれほどいい数字ではありません。しかも9月分が1.6万人、10月3.3 万人それぞれ下方修正されていました。大統領選挙直前の雇用統計が非常に良い数字だったことから、発表された数字が信用に足るものかどうか議論されましたが、やはり下方修正がありましたね。また、同時に発表された11月の失業率は7.7%。一見すると10月の7.9%から比較して良くなっているので好結果、という判断をしてしまうのですが、実はそうではないのです。

雇用統計では労働参加率という数字も発表されるのですが、この数字が10月の63.8%から63.6%に低下していることが確認できます。労働参加率とは実際に就職しているか就職活動をしている人の割合です。職探しをしていない人は雇用市場を去った人ということで労働参加率に加算されません。つまり、失業率を計算するときの分母にはカウントされないのです。この労働参加率は現在30年来の低水準にあります。今回はハリケーンサンディの影響でしょうか、職探しを諦めてしまった人が増えたことが失業率の改善に繋がった、ということなので、決して良い改善ではなかったのです。

中味をよくよく吟味した結果、今回11月分の雇用統計はポジティブに評価できるものではなかったためドル買い相場は短命でした。が、そもそも現在の雇用統計の注目度と相場への影響力はそれほど高くないと考えています。QE3という伝家の宝刀を抜く前は、統計が悪ければQE3期待が高まり、結果が悪いのにリスク資産が買われるといった具合で雇用統計の数字の注目度は非常に高かったのですが、伝家の宝刀を抜いてしまった今では、雇用統計がアメリカの金融政策を左右するものではなくなってしまいました。再度雇用統計が高い注目を集めるようになるのは「出口戦略」という言葉が市場の話題となるくらいに、米国経済の回復が顕著になってきた時なのでしょう。雇用統計でいい数字が出てくれば、出口への思惑からマーケットが引き締まる、というようなサイクルを経ても尚相場が堅調地合いとなってくれば、いよいよアメリカの金融政策が緩和から引き締めに転換するタイミング。その頃となれば再び雇用統計などの景気指標がマーケットのトレンドを変える程の影響力を持ち始めることもあるかと思いますが、金融緩和を継続せざるを得ない現状においては、その影響力はそれほど高いものではないと考えています。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount 

@hirokoFR

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧