マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
先週のコラムでユーロについて書きましが、ここからのユーロの動向を読むには「ユーロ/スイス」の動きをウォッチしておく必要がありそうです。
欧州債務危機以降、欧州の富裕層は価値が下がり続けるユーロを保有することへのリスクを避けるために安全資産のスイスに資金を移しました。これによってユーロ/スイス相場は2007年には1.6828の高値があったものが2011年には1.0706まで下落しました。歯止めがかからないスイスフラン高となって困ったのがスイス政府。スイス経済にとって輸出は生命線です。スイスの名目GDPに占める輸出の割合である輸出依存度は54%と全体の過半を占めているのです。(日本は15%程度)スイスの最大の輸出先はドイツをはじめとするユーロ圏ですから、フラン高ユーロ安がもたらすスイスへのダメージは甚大なのです。
このスイス高を阻止するため、スイスは2011年9月に「1ユーロ=1.20フランを下回るユーロ/スイスフラン相場は容認しない。この最低水準を守るため、無制限に外貨を購入する用意がある」と「無制限スイス売りユーロ買い介入」を表明、この時からユーロ/スイス相場はピタリと1.20フランで止まってしまったのです。この後、1度たりとも1.20を割り込むユーロ安スイス高にはなっていないのですが、昨年9月あたりから1.20水準を下値に少しずつユーロ高へと相場が動意づいていました。おそらく昨年夏以降のECBによる無制限国債買い入れ宣言からユーロ崩壊への懸念が後退し、欧州の富裕層によるユーロ逃避が止まったのでしょう。
そして、先週1月10日から今度はユーロ買いスイス売りが加速、一気に1.2567まで上昇したのです。1.20フランに防衛ラインを設定して無制限介入を行ってきた政策が功を奏したという見方もできますが、この動きの背景にはスイスの銀行2位、クレディ・スイス ・グループが、昨年12月スイスフラン建ての現金決済口座にマイナス金利を適用したことがあげられるかと思います。定期預金は対象外、決済預金だけなのですが、民間銀行がマイナス金利を適用するとの報道はインパクトがありますね。定期預金として長期的にスイスフランに換えておく必要がない短期資金は流出入が激しく、銀行としても保有メリットが少ないのでしょう。ともかく、いくつかの商業銀行がマイナス金利を適用したことで、流動的な資金はスイスフランから逃げ出し始めたのです。
さらに、正式発表があったわけではないのですが、「スイス政府がSNB(スイス国立銀行)にユーロ/スイスフランの下限を1.25スイスフランに引き上げるよう要請している」という噂もあり、これがもし事実となることがあれば、さらなるユーロスイスの上昇となることが予想されます。
何故、ユーロ/スイスの動向をウォッチしておく必要があるのかというと、ユーロ/スイスの動向が他のユーロ絡みの通貨ペアに影響を及ぼす可能性が非常に高いからです。ドル/円相場の急伸が、ユーロ/円や豪ドル/円の上昇に繋がるように、ユーロ/スイスの上昇はユーロ/ドルやユーロ/円などの上昇という形で現れてくるかもしれない、のです。
ではここからユーロ/スイスは上昇を続け、これがユーロ/ドル相場やユーロ/円の上昇に繋がる相場となるのでしょうか。
1つ注意しておかなくてはならないのは、SNBはユーロ/スイスを1.20レベルから下がらない為の無制限介入で膨大なユーロ買い、スイスフラン売りを続けてきました。つまり、スイスの外貨準備に占めるユーロの割合は相当膨らんでいると思われ、一節にはユーロ/スイスが10%下落しただけでSNBの資産が吹き飛んでしまうという話も。そして、これもまだ確認の取れない噂レベルの話なのですが、こうして膨らんでしまった外貨準備に占めるユーロをバランスするため、SNBがユーロを売るのではないか?という予想も出てきており、そうなると、今度はSNBが保有するユーロが売られることで、ユーロ/ドルやユーロ/円などユーロクロスでのユーロ売りが出てくることが予想されるのです。
現在の上昇は、SNBの介入が保たない(1.20を守ることに失敗してスイス高が進行する)可能性に掛けてユーロ/スイスを売っていた向きの買い戻しによる上昇に過ぎないのかもしれません。欧州圏は緊縮財政から成長が難しく、ユーロが積極的に買われるという状況にはありません。また南欧を支えるドイツなどの北欧諸国はユーロ安によって経済成長が大きくなる構造です。ユーロの上昇は欧州にとっても好ましいことではありません。
ということで、今後のユーロ/ドルやユーロ/円相場を見る上でユーロ/スイス相場の動向が先行指標となる可能性が出て来ました。先週末には上昇してきた相場が大きく下落に転じており、日足チャートを見ると天井圏に出そうな長い上ヒゲを示現しています。ここからユーロ/スイスが更なる上昇となるのか、崩れてしまうのか注意深く見ていく必要がありそうです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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