第27回 世界遺産を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第27回 世界遺産を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。5月もはや中旬と、とても過ごしやすい季節となってきました。しかし、毎年のことながら、証券アナリストや機関投資家は年内で最も多忙な時期を迎えています。続々と発表される決算、その内容の確認、決算説明会の出席、会社への個別訪問、業績見通しの修正、レポート作成などに忙殺され、1日はアッという間に終了してしまいます。なんとか週末を使ってキャッチアップを図るという状況にあるため、一年で最も快適なこの気候を全く堪能できておりません。いつも、気が付いたころには梅雨入りでした(笑)。将来、完全引退をした時には、「5月」というものを心行くまで楽しんでみたいと思っています(笑)。

その決算ですが、今年度はなかなか厳しい状況と言わざるを得ません。2013年度は概ね好決算でしたが、これらは既に株価に織込み済の内容です。注目は2014年度の企業側ガイダンスとなりますが、総じて慎重な見通しが目立ちます。アベノミクス期待が盛り上がった昨年とは異なり、今回は消費税率引き上げ、中国の金融不安、地政学リスクの増大など不安材料には事欠かないためです。人件費や諸資材の価格上昇も無視できません。現時点ではそれら不安要因の完全払拭は難しく、どうしても保守的なスタンスを採らざるを得ないのでしょう。株式市場もまた同様に、一進一退を余儀なくされているように思えます。相場はまだ方向感に欠けており、何らかのきっかけ待ちという状況にあるようです。

さて、今回取り上げるテーマは「世界遺産」です。先日、我が国18番目の世界遺産として富岡製糸場が内定したとの報道がありました。昨年の富士山に続いて2年連続の登録となり、実に喜ばしいことニュースでした。株式市場では、これに伴って早速関連銘柄が物色されたのは記憶に新しいところです。しかし、物色された銘柄の株価はその後どうでしょうか。ご存知の通り、株価が反応したのは極めて短期間で、今や多くの物色銘柄は世界遺産登録前の水準に戻ってしまっています。実は、昨年の富士山登録の際も同様の株価の動きがありました。今回はここに焦点を当てて考えてみたいと思います。

そもそも、世界遺産登録でなぜ関連企業が物色されるのでしょうか。これは簡単です。観光客・訪問客の増加が見込まれることから、関連企業や周辺企業にはビジネス機会が発生すると考えられるためです。ならば、なぜ株価はすぐに元の水準に戻ってしまうのでしょうか。先の答えをそのまま踏襲すれば、「人は増えても、やはりそれほどビジネス機会はない」と判断されたということになるでしょう。これにはいろいろ見方もあるでしょうが、端的にはそういった理由づけができるはずです。しかし、これには疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。「では、あの急増する観光客は何なのだ?」と。そう考える向きには、株価の調整局面はむしろ絶好の買い場にも思えてくるかもしれません。

しかし、よく考えてみてください。人気の大型テーマパークでさえもリピーターを確保するのには相当のノウハウと投資が必要な世界です。世界遺産とテーマパークの比較は不謹慎かもしれませんが、観光ビジネスという点では同じモノサシで考えることができるはずです。果たして、世界遺産ということだけでブームをどれだけ維持できるかはかなり疑問が残ります。まして、世界遺産はその維持・保全・使用にかなりの制約がかかるうえ、コストも少なからずかかります。世界遺産は実に強力なコンテンツですが、種々の制約やコストを考えれば、ビジネス面でのハードルは決して低いモノではないことが想像できるでしょう。つまり、世界遺産関連銘柄の息の長さを測るコツは、大型テーマパークに匹敵するバリエーションを許容できるものなのかどうか、そしてそれだけのノウハウと投資が可能なのかどうか、ということを見極めることにあると言えるでしょう。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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