第65回 住宅市場は曲がり角に?【北京駐在員事務所から】

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第65回 住宅市場は曲がり角に?【北京駐在員事務所から】

このコラムでも何度かご報告申し上げておりますが、中国の都市部では住宅価格の上昇が止まらず、市民の不満が高まっていました。
この間、各市の政府は、市場の過熱抑制のため様々な施策を講じましたが、一時的な効果にとどまり、大きな流れを変えるまでには至っていませんでした。

ところが、今年に入り、価格上昇にも限度があるということでしょうか、地方都市を中心に市場のムードが急変し、開発業者各社の収益も急速に悪化しているそうです。

上海と深圳の証券取引所に株式を上場しているデベロッパー117社のうち、今年の第1四半期(1~3月)に前年同期比減益あるいは赤字となった会社は61社に達しました。
117社合計の純利益は96.5億元(約1,600億円)で、前年同期比27%の減益です。風向きの変化を象徴する事例が、深圳に本社を構える住宅開発最大手の万科集団です。
同社の第1四半期は、売上高が前年同期比32%の減収に、また純利益が同5.2%の減益になりました。四半期での減益は12年ぶりだそうです。
第1四半期は旧正月の連休があり、市場の動きが鈍る時期ですが、それでも変化は明らかなようで、物件の販売額、販売面積、またデベロッパーによる開発用地の取得のいずれも、減少傾向を見せていると伝えられています。

業界関係者は、1~3月の不振について、前年同期が、4月から主要都市で実施された需要引締め策の直前の駆け込み需要で絶好調であったことの反動を指摘しています。
また、昨年後半以降、金融機関がデベロッパーに対する融資姿勢を厳しくし、一部には経営破綻する業者も出る等、先行きに不透明感が漂ったことで、需要が縮小したとも言われています。
さらには、住宅価格高騰への対策として、各市の政府が、低所得者向けの住宅供給を積極的に行ったことで、一次取得者の需要が縮小したことも要因とされています。

住宅取得希望者が様子見の姿勢を強めていることから、各地方政府やデベロッパーは対策を迫られています。経営破綻を免れても、資金繰りが悪化している業者が多く、中部杭州市の業者は在庫物件処分のため3割を超える値下げに踏み切りました。
「背に腹は代えられず」というころですが、値下げ処分も上手くいくとは限らず、一部では値下げ前に購入した顧客との間でトラブルとなるケースもあるそうです。
また、景気の悪化を避けたい地方政府の動きとしては、南部、広西チワン族自治区の南寧市が、4月から住宅取得に関する規制の緩和に踏み切りました。
昨年は各地で一斉に規制が強化されましたので、まさに朝令暮改という感じです。他の地方都市も、遠からず同様の政策変更を迫られると見られています。

北京や上海などの主要都市や、それらに次ぐ規模の都市では、住宅価格の大きな修正は無いとの予想が有力ですが、これも昨年までの潜在需要の強さが変わらず、地方都市で見られる顧客の様子見が大都市まで広がらないことを前提としたものです。
永くわが世の春を謳歌してきた不動産業界にも、どうやら転機が近づいているようです。

日本でも、バブル期には、先高感で「早く買わないともう買えなくなる」との不安が広がり、人々が争うように住宅購入に動きました。
特に、地方自治体が手掛ける分譲住宅には購入申込が殺到し、大変な抽選倍率になったとのニュースが伝えられました。今では想像もできない時代です。
現在の中国都市部の状況は、まさに当時を彷彿とさせるものがあります。賃金水準は日本より低いにも関わらず、北京の新築分譲マンションの価格は東京と大差がないのですから、大変な買い物です。
少なくとも、価格の乱高下で一般市民が右往左往する状況は好ましいものではありません。
各地方政府や業界が、顧客のために大局的な見地で市場の鎮静化を図ることを望みたいと思います。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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