第66回 中国の発展を支える農民工【北京駐在員事務所から】

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第66回 中国の発展を支える農民工【北京駐在員事務所から】

先週、中国の国家統計局が、昨年2013年の農民工(農村部の戸籍を持ちつつ、農業に従事せず主に都市部で建設業、製造業などに従事する労働者)についての実態調査の結果を発表しました。

農民工は、貴重な労働力として長く中国の発展を支える原動力となって来ましたが、近年、若年層で高学歴化が進み、中高年の労働者とは行動パターンが異なっていると分析されています。

2013年の農民工は推計2億6,900万人で、前年から2.4%増加しました。全人口の2割に達します。
農村部の労働人口に対する比率は49.7%で、農村部労働者の約半数が農民工になっています。
男女比は2:1で、平均年齢は37.6歳、学歴別では小学校卒が16.6%、中学、高校卒が76.7%、大卒以上が6.7%です。

日本のニュースでも、時々農民工について報道されており、より高い収入を求めて、地方の農村部から北京、上海等の大都市に移住する出稼ぎ労働者というイメージが形成されています。
しかしながら、実際には全体の4割近い約1億人が、郷里の農村部で農民工となっており、また郷里を離れて移住する農民工も、近隣(同一省内)の都市(規模は大小様々です)で仕事に就くケースが多く、必ずしも「大都会に出て稼ぐ」という者ばかりではないようです。

中高年の農民工は、「渡り鳥」とも言われ、都市部でせっせと稼いで郷里に仕送りをするまさに「出稼ぎ」でしたが、農民工全体の46%を占める1980年以降生まれの「80后」世代では、中高年世代と職業意識や人生設計が大きく異なっているそうです。
80后の農民工は、高校卒業以上の学歴を持つ者も多く、中高年層の多くが従事している建設業への就業を好まない傾向があります。建設業は仕事のきつさに加え、技能の習得に長期間を要するため人気が無く、製造業の組立ラインの仕事などに求職者が集中しています。さらに最近では小売業等のサービス業に従事する者も増えているそうです。

中部江蘇省の無錫市にある建設会社の担当者は、「若年労働者の採用が難しくなっている」と述べています。一方、同じく中部浙江省の温州市にある靴メーカーでは、毎年旧正月明け後に多数の若年労働者が職を求めて訪れるそうで、同社の担当者は労働力不足とは無縁と話していました。

中高年の農民工は、「ひたすら稼ぎ、いずれは郷里に戻る」ことを目指していましたが、若年層では、移住先に定住し、都市部の住民としての生活を模索する動きも強まっています。
中国では、「都市戸籍」と「農村戸籍」が制度上分離され、移動や居住が制限されているのですが、都市部で生活する農民工が、住民として認められないため、社会福祉や子女の教育等の恩恵を受けられないことなどが問題とされ、その結果近年徐々に規制が緩和され、流動化が進みつつあります。
それでも、農村戸籍を捨て都市部に移住するためには、郷里での農地の所有権(農地は農民が共同で所有します)を放棄する必要がありますので、農民工や家族にとっては、人生を左右しかねない大きな決断を伴います。

中国政府は西部での鉄道等インフラ整備、さらには資源開発等に力を入れており、土木、建設関係の労働者が多数必要なのですが、報酬は高いとされるものの、気候の厳しい地域での激務となりますので、十分な人材が確保できるか危惧されます。建設労働者の不足が、経済成長の阻害要因になる恐れも否定できません。

日本でも、第二次世界大戦後の高度成長期には、出稼ぎ労働者あるいは地方からの新卒者が都市部に出て働き、貴重な労働力として成長を支えました。
日本の場合は、戸籍の区分や農地所有の制限が無く、様々な選択が可能でしたが、中国では種々の制限が農民工の行動に影響を与えています。
そして、何よりも都市部と農村部、さらには東部沿岸部と内陸部の間で、所得や生活の水準が大きく異なっていることが、多くの農民工を生む一因となっています。
テレビニュースでは、両親がともに都会で働き、子供たちだけで郷里の農村で暮らす様子などが報じられています。子供たちが不憫に思えてなりませんが、離れて暮らす親の辛さも想像に難くありません。
彼らがどのような選択をしようとも、いずれは家族が揃って幸せに暮らせるよう、願いたいと思います。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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