第111回 ユーロは天井を付けたのか?ユーロの今後のポイント 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第111回 ユーロは天井を付けたのか?ユーロの今後のポイント 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ユーロは、5月8日のECB理事会でドラギECB総裁が「理事会は6月に行動することに違和感はない」などと述べたことから急反落。いよいよECBも追加緩和策に踏み切るとの思惑が一気に市場を駆け巡り、ユーロ/ドル相場はこの日1.40ドル目前まで上昇していたのですが、昨日5月26日には1.3612ドルまで400pips近くも下落しました。このところのドル/円相場は、1日数十銭しか動きがない日が続き、すっかり膠着していることを考えると、ドル/円ではなく、ユーロをトレードしない手はありません。ボラティリティ(変動幅)が小さい相場で収益を上げるのは困難ですが、トレンドが見える相場は大きな収益が得られるチャンス!相場に上手く乗ることができれば...ですが(笑)

今回はここからのユーロ相場を、どのようにみていけばいいのか考察してみます。

◆ユーロ安に終止符を打ったのはドラギ総裁発言だった

2009年10月、ギリシャ政権交代で国家財政の粉飾決算の暴露から始まり、スペイン、ポルトガル、イタリアにまで危機が波及した欧州ソブリン危機。ユーロ崩壊とまで言われたこの危機は2012年7月、ドラギ総裁が「Believe me」(ユーロを守るためにはなんでもやる、私を信じろ)と発言したことがきっかけで収束に向かいます。実はなんでもやるとは言ったものの、実際にはECBが伝家の宝刀(ユーロ共同債発行など)を抜くことはありませんでした。国によって財政状況がバラバラであるため、共同債など簡単に発行できるものではなかったのです。しかし、ドラギ総裁のこの発言ひとつで相場が転換してしまったというのが今後のユーロを見ていく上でもポイントとなってくるのかもしれません。


◆リスクと思われてきたウクライナ情勢

欧州に輸出されるロシアの天然ガスの80%はウクライナを通過します。これはEUの輸入するエネルギーの20%以上に相当するという地政学リスクから、ウクライナ問題は欧州にとってネガティブ要因のように見えるのですが、実際にウクライナ情勢が緊迫化すると「ドル安」が進行、ユーロが買われる展開となりました。ロシアによるクリミア併合の際に、欧米がロシアに経済制裁を課したことで引き起こされたのが、ドル資産からユーロへの資金逃避。ロシアでのドル使用が困難になる可能性が高まれば、ドルからユーロに資金シフトしておこうという思惑が高まるのです。天然ガス取引の関係でユーロ圏からロシアへの経済制裁はほぼ不可能とみられることからロシア系公的機関がユーロを買ったとの指摘もありました。
しかし、この流れも一服したと思われ、ウクライナ問題は先週末の大統領選挙で新たな局面入りとなりました。親欧米路線を掲げる元外相のポロシェンコ氏が勝利宣言。ロシアも対話の用意があると表明しています。ロシアの出方次第では再びリスクとしてマーケットの重石になることもあるかもしれませんが、ウクライナ情勢の緊張度が再び高まる可能性はやや低下しており、これは欧州諸国の株式相場やユーロにとってのプラス材料と見られます。週明け26日、ユーロが戻り基調にあるのは、大統領選挙通過も一因とみられます。


◆欧州議会選挙

欧州ソブリン危機以降、EU離脱や他の加盟国への財政支援に反対するEU懐疑派・反対派の政党が台頭していましたが、今回の欧州議会選挙では英国(UKIP)フランス(FN)ギリシャ(SYRIZA)と多くの国で反EU政党が第一党となる歴史の転換ともいえる驚きの結果となりました。これは、もし再び債務危機や金融機関の信用リスクが起きた場合、EUとしての対応を困難にするもので、ユーロにとってはネガティブ材料なのですが、今日26日ユーロは上昇しています。意外だったのがイタリアで反EU派である(M5S)が第2位に終わり、緊縮財政政策を行う現政権民主党が第1党となったことで、安心感が広がったという指摘があります。これを見た債券市場で欧州債の買いが入り、ユーロが強含んでいるのでは?ということですが、リスクとされていた欧州議会選挙も波乱なく通過したようです。


◆ウクライナ大統領選、欧州議会選挙はユーロ売りを連想させるイベントでしたが、むしろユーロは買い戻される結果に。ユーロ/ドルの日足チャートを見ると200日移動平均線付近で下げ止まり、抵抗を見せているようです。200日移動平均線が強く意識されるのならば、ここからは一気に底抜けするというような勢いのある下落にはなりにくく、来週に控えた6月のECB理事会にいったい何ができるのか?という思惑に神経質に動かされる「レンジ相場」となっていくような気配です。


◆しかしながら、今回もまたドラギ総裁の発言がきっかけとなって相場が転換したことは大きなポイントではないかと思っています。2012年7月のドラギ総裁発言で相場がユーロ安からユーロ高に転じた際も、いったい何ができるのだ?!という懐疑の中での上昇でした。実際には危機救済の特効薬となる具体的政策に踏み切ったわけではなかったのに、です。今回もまた、下げ余地の少ない政策金利を引き下げるとか、マイナス金利導入など限られたカードしかなく、特効薬はないとして市場関係者が懐疑的にみる中での大天井であった、でしょうか。実際のところ、ドイツの貿易収支やディスインフレに陥っている欧州経済を見るとユーロ高予想が大勢ではあるのですが...。ただし、揉み合いながら、戻りを入れながらの下落のイメージです。1.40ドルを付けずに下落した今回の高値は直近の天井だった、ということに過ぎず、このままつるべ落としで下落するという強いトレンドになるということではありません。今すぐ売りということではないのでご注意を。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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