マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国は共産党一党支配の国で、党、中央政府、地方政府、政府関係機関及び国営企業の幹部や大学、研究所の職員などの人事が一元的に行われています。
習近平国家主席(共産党中央委員会総書記)が、南部の福建省や上海市で党及び政府の要職を歴任し、国の中枢である共産党中央政治局入りしたことからも、「党と政府が一体」であることが理解できます。
中国では共産党に公的機関の人事権があり、特に各部門の要職者については、党の中央政治局が任免の審査、批准を行うと定められています。
汚職撲滅を重要な政策課題として掲げる習近平政権のもと、このほど共産党の中央委員会弁公室(党中枢部の事務局に相当する組織です)は、党や政府で昇進、昇格の対象となる者について、日頃の業務遂行における成果や、周囲からの評判を詳細に審査し、能力が低い、あるいは汚職に手を染めている等の理由で適任でない者の昇進を認めないとの方針を打ち出しました。
弁公室の人事局は、昇進候補者の業務遂行状況を詳細に調査し、特に「プレッシャーのかかる状況下でどのように成果を挙げることができるか」に注意を払うとのことです。
また、昇進候補者の人間性や倫理観も審査されるほか、インターネット上の評判なども情報収集され、昇進の可否の判断材料とされるそうです。
今回の審査強化は、共産党中央委員会の「清冽で忠誠心ある者、また改革発展に著しい成果を挙げた者のみを昇進させる」との方針を受けて行われました。
法令違反や共産党の規則違反を犯した者の昇進は、今後はさらに困難となる見通しです。
昇進候補者に関する審査の過程で、問題が認められた場合には、人事局が対象者と面接を行い、昇進の可否を判断するとのことです。
また、今後人事異動の対象となる役職については、担当する職務やそれに伴う権限の内容を明文化し、候補者に適性があることを確認してから異動させるとし、あわせて、候補者の過去の職歴や家族構成等にも留意するとしています。
「いくら叩いてもほこりが出ない」ことが求められるのですから、出世するのも大変です。
「汚職や不正行為を働いた者は昇進させない」というのは至極当然、かつ望ましいことと思える一方、共産党による情報収集と審査がどの程度公平、公正に行われるのかについては、疑問も拭えません。
「ネット上の評判も参考に」と言っても、真偽の定かでない情報まで取り込むのか、悪意の書き込みや噂、ネガティブキャンペーンなどを峻別し、排除できるのかなど、突っ込みどころ満載にも思えます。
また、担当者から組織中枢レベルまで、候補者との人間関係等に起因する恣意的な審査、判断が行われる懸念もあり、さらに究極的には、前首相の温家宝氏の一族による不正蓄財疑惑が大きな問題とならなかったように、「トップまで登りつめれば誰も手出しができない」という構造的問題があり、公平性を維持することは困難とも思えます。
今回の共産党の改革が機能し、成果を挙げることができるか、また中国社会がコネや賄賂の文化から脱却できるか、日系企業の活動にも影響する話ですので、過度の期待は禁物とは言え、注目したく思います。
日本でも、昭和の時代には「汚職」や「贈収賄」がニュースで頻繁に報じられたものです。中国がどのように変わって行けるのか、あるいは行けないのか、習近平政権の決意とリーダーシップが問われています。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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