マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は俄かに緊張してきた朝鮮半島情勢やそれに伴う円高の進行などを嫌気して調整色を増してきました。国内景気も堅調ながら、人手不足などがボトルネックとなって加速感が生じるには至っていない印象です。本来なら人手不足がここまで深刻化すれば賃金の上昇と相俟って消費の拡大といった景気拡大パターンが鮮明となるのでしょうが、未だそこまで消費に繋がっているようには見えません。依然として、株価を引き上げて行くほどの好材料が見当たらない状況は継続しており、市場の雰囲気もリスクオフへと傾きつつあるように感じています。
さて、今回はこのテーマに触れざるを得ません。「有事」です。ここでは軍事的危機という観点でこの言葉を使います。通常、このコラムはテーマとして一旦物色されたものを検証・再考する、あるいは新しい流れから期待されるテーマを考察する、といったスタンスで書いていますが、このテーマに関しては今まさに急速にリスクが高まってきたことを受けての執筆となります。事態は刻一刻と今後変化するため、状況によっては掲載前後に中身が陳腐化してしまう可能性もありますが、何卒ご容赦下さい。それでも敢えてテーマに採り上げるのは、読者諸兄もご存じの通り、現在は朝鮮半島情勢の緊張や米国によるシリア軍施設の攻撃など、国際情勢は一気にきな臭くなってきたため、です。東アジアで有事が発生する可能性に関しても、依然その確率は低いといえども、あながち一笑に付すことはできない状況となってきたように思えます。言わずもがなですが、有事が発生すれば、専守防衛の我が国においても何らかの飛び火を受ける可能性も否定できません。そういった場合、生命や安全の確保が最優先であり、投資云々を考える状況であるはずもないでしょう。そこで、危機の現実性が増してしまう前に、投資に関しての考え方・見方をここで一旦整理しておこうと思うのです。
不謹慎極まりないのですが、実は「遠くの戦争は買い」という相場格言があります。戦争は経済合理性を無視(あるいは軽視)した究極の破壊活動ですから、その過程においても、またその後の復興過程においても、強烈な物質需要が発生します。火の粉が自身に降りかからなければ、その需要拡大のメリットを享受できるというのがこの格言の真意でしょう。かつて、敗戦後の恐慌状態にあった日本経済を朝鮮戦争が押し上げたことは事実ですし、1929年の世界大恐慌後の米国も、経済の本格回復は第二次世界大戦による軍需景気の寄与が指摘されています。しかし、今や大陸間でもミサイルが飛ぶ時代でもあり、テロなどによるゲリラ戦も無視できなくなりました。「対岸の火事」も決して楽観できないのが現実だと考えます。そもそも、これだけ世界が貿易で繋がる状況において、それを阻害する有事というものが経済に悪影響を与えないはずはありません。よく戦争を望む企業があると云う方もいますが、かつてならいざ知らず、現代ではまず現実的ではないでしょう。先々週来、株式市場が軟調に推移しているのは、日本もまたその余波が避けられないといったリスクを織り込み始めたためだと思えるのです。
仮に有事が勃発すれば、株式市場にも相応のショックが走ることは容易に想像できます。既にリスクの織り込みがそれまで進んでいたとしても、現実に起こることで今度は有事長期化のリスクや飛び火の発生リスクを改めて織り込みに行くと考えるため、です。平時であれば、懸念材料が現実化したところはむしろ「悪材料出尽くし」と受け止められますが、有事の場合は勃発が出尽くしとならず、むしろ次なるリスクを誘発しかねない引き金となってしまうからです。その後は戦況や被害状況を睨みながら一進一退の展開となり、鎮静化の可能性が見えてきたところで、ようやく株式市場も将来への投資という通常に戻ることになると予想します。歴史的にも、有事が「合理的に」始まるケースは稀で、多くはふとしたきっかけがその発端となっています。当然、そんな状況が現実になるとは考えたくもないですが、現状を冷静に見る限り、わずかでも可能性のある最悪のシナリオにも気を配っておくことはとても重要であると考えます。
さらに、有事の勃発にかかわらず、今回の東アジア情勢の緊張はその後の国際情勢をも大きく変える可能性があります。どのように事態が沈静化するかによって、そのシナリオは全く変わってしまいますが、投資先や主要市場がこれまでとは一変するシナリオも無視はできません。当面は、予断を持たず慎重に状況を見極めて行くことを肝に銘じておきたいと考えます。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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