マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
1週間前の4月18日、英国ポンドが大きく上昇しました。英国のメイ首相が、EU離脱に向けた交渉方針について国民に信を問うため、総選挙を6月8日に前倒しして実施する意向を明らかにしたのです。前回の選挙は2015年5月に実施されており、次回は2020年の予定(5年おき)であるため、実現すれば総選挙が3年も前倒しされることとなります。なぜ、メイ首相は「国民に信を問う」必要に迫られているのでしょうか。そして、なぜこのことがポンド上昇につながるのでしょう。
メイ首相は去年2016年にEU離脱の是非を問う国民投票の責任を取って辞任したキャメロン前首相の後任として就任しました。メイ首相は移民の流入制限を優先し、域内無関税の単一市場からの脱退も辞さない「強硬離脱」を表明していますが、野党側は総選挙を経験していない首相に離脱交渉を任せることはできないと批判しており、英国議会では離脱交渉が進まない状況に陥っています。
現在の保守党は定数650の下院で330議席(最大野党労働党は229議席、SNPが54議席、自由民主党9議席etc...)と、かろうじて過半数を獲得しているに過ぎません。与党から造反が出ればEU離脱交渉に影響が出かねない、ぎりぎりの状況にあります。しかし、最新の世論調査委によりますと、メイ首相の支持率は50%近くにも上っている反面、労働党のコービン党首は14%にとどまっています。総選挙が実施されれば与党・保守党が優勢になると見られています。メイ首相としては国民の信任を得ることで今後の離脱交渉を有利に進める思惑があるということですね。同日実施された緊急世論調査では、解散総選挙を「実施すべきだ」との回答が68%を占め、総選挙で「保守党に投票する」との回答が46%に上り最大野党労働党の25%に大きく差をつける結果となっています。現時点では、メイ首相の賭けは上手く行きそうだ、ということで、これまで売り込まれてきたポンドに大きく買戻しが入った、ということなのでしょう。
◆見通しを変更したドイツ銀行
この「解散総選挙表明をきっかけにしたポンド急騰劇」を「ゲームチェンジ」と見る向きもあります。これまでドイツ銀行は「2017年末までポンド/ドルは1.06ドル近辺までの下落」を見込んでいましたが、このニュースを受けて「過去2年間、ポンドについては組織的に弱気だったが、われわれは、その見方を変えつつある。悲観的な為替取引はすべて終了させている」「英国の総選挙に関するニュースは、ゲーム・チェンジャーだ」としています。今回のポンド急伸劇の背景にはドイツ銀行のポンドショート買戻しも相当あったとみられますね。
ポンドは、ブレグジット騒動で下落が続いており1985年以来の安値を更新する下落が続いていましたが、いよいよ底入れ確認でしょうか。
◆インフレの高まりと早期利上げ観測
政治的背景だけではありません。英国のインフレ率にも注目です。2月の消費者物価指数(CPI)は2013年9月以来の大幅な伸びとなる前年比2.3%上昇となりました。イングランド銀行が目標とするインフレ目標2%を上回るのは2013年以来。カーニー総裁は2月、「許容できるインフレ率には限度がある」と発言しており、インフレの高まりは英国の金融政策の転換に繋がる可能性が大きいのです。実際、イングランド銀行のソーンダース委員は21日、今年の成長、インフレ率は中銀が2カ月前に示した予想を上回る見通しとし、金利をやや引き上げる余地があるとの認識を示しましたが、先般公表された3月のBOE会合の議事要旨でも、利上げを求めたフォーブス委員に加え、匿名の他メンバーも利上げ支持を検討していることが明らかになっています。
◆まだまだ偏りが大きいポンドショートポジション
IMM通貨先物ポジションで4月18日時点の最新のヘッジファンドなど投機筋らのポジションをチェックしてみると、ポンド売り越しは(買いと売りを相殺した結果、売りが大きいため売り越しと呼びます)前週比で▼6,411枚。若干売りポジションが解消されたことが確認できますが、それでも売り越し枚数は10万7,844枚と、相変わらず過去最大レベルにあります。ブレグジットの混乱があった2016年よりもさらにショートが積みあがった状態にあり、このショートポジションが買い戻されれば、それだけで新規のポンド買いが出なくても、ポンドの上昇圧力となってきます。為替市場のプレーヤーは多岐に渡り、こうしたファンドのポジションが為替変動要因の全てではないのですが、一つの目安にはなりますね。過去最大レベルのショートポジションが積みあがったままの状態で、テクニカル的にはポンド/ドルはこれまでのレンジの高値を上抜けて新たなステージに入ったように見えるほか、ポンド/円もウェッジフォーメーションの下落トレンドを上に抜けた格好です。テクニカルの改善が、偏ったポジションの解消を促すことで、ポンドが一段高となる可能性は大きく、ここからはポンドの逆襲に注目です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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