第211回 2020年までに貧困を撲滅」は実現できるか? 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第211回 2020年までに貧困を撲滅」は実現できるか? 【北京駐在員事務所から】

世界第二位の経済大国となった中国ですが、広大な国土には地理的な条件に大きな差があり、国民の間の所得、生活水準の差も大きなものになっています。
テレビニュースで時々報じられる最貧地域の様子は、「ようやく電気が通じた」あるいは「水道が使えるようになった」等、戦前の日本かと思わせるものです。
北京の中心部と比べますと、同じ国とは思えないほどの差があります。

それでも、共産党の思想、政策を浸透させるためでしょうか、電気が通ればまずテレビでCCTV(中国中央テレビ)のニュースが流れ、次いでスマホが一気に普及します。
どんな僻地でも、ネット通販であらゆる商品が購入できますので、こと消費に関しては、使えるお金の額は違うものの、都市部と条件的には同水準になります。
このあたりは、日本の農村部の生活水準向上の過程とは大きく異なっており、「これが21世紀」と実感させられます。

都市部と農村部の所得や生活水準の差が、将来的な社会の不安定要因となることを懸念する習近平政権は、貧困の撲滅を重要な政策課題とし、取組を進めています。
2015年時点で、中国では年間所得が2,855元(約47,000円)以下である人々を貧困層と定義しています。
2013年から16年までの4年間に、5,500万人を貧困から脱却させ、総人口に占める貧困層の割合も、2012年の10.2%から、2016年末には4.5%に引き下げることに成功しました。それでも、なお4,000万人以上が貧困層に留まっており、政府は2020年までにこれらの国民の所得水準をボーダーライン以上に引き上げ、貧困層を撲滅させるとしています。

しかしながら、ここからの取組は、チベットやウイグルなどの山岳地域や砂漠地域など、産業振興が困難な地域が主な対象となり、また人口密度も低く、観光地化やインフラ整備による地域振興も現実的でありませんので、打つ手が限られます。
住宅や金銭、就業機会などの補償を行った上での強制的な移住なども必要になるかもしれません。
政府にとっても、また対象となる住民にとっても、難しい選択を迫られることになりそうです。
皆が満足できる形で貧困撲滅が実現できるよう望みたいと思います。

テレビニュースなどで見る農村部の生活からは、北京との差があまりにも大きいことが実感できます。
現在は、年々所得が増加し、生活水準の向上が感じられることから、不満が抑制されている部分があるのでしょうが、その間にも富裕層と貧困層の格差は広がっているように思われます。
将来、いつか成長が止まり、所得や生活水準の向上が見込めなくなった時に、相対的に貧困な層に置かれた人々の不満が爆発することにならぬか、また政府が人々のそのような不満を抑制あるいは解消するためにどのような政策を取ることができるのか、注目したいところです。

中国国内の貧富の差が、これからも長く社会問題となることが心配されてなりません。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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