第99回 「生産緑地」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第99回 「生産緑地」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は、1回目のフランス大統領選の結果や北朝鮮が重大な軍事挑発を回避したことで、一旦安心感の広がる展開となりました。依然として国際情勢にはまだ不安が残ってはいるものの、不安定な状況が継続するといったシナリオを市場は模索し始めたように感じています(とはいえ、有事勃発となれば、話が変わってくることは前回のコラムで指摘した通りです)。一方、ちょっと注意しておきたいのは、緊迫する朝鮮半島情勢の陰で国内景気にスローダウンの兆しが見えてきたことです。内閣府の景気ウォッチャー調査でも、ここにきて下向きのトレンドが続いています。過度の悲観は禁物ですが、当面はむしろ景気動向を慎重に見ていきたいところです。

さて、今回はテーマとして「生産緑地」を取り上げてみましょう。このテーマは既に薄々ご存知の方もおられると思いますが、まだ一般的な認知度は低いと思われます。しかし、生産緑地は2022年に大きな変化点を迎える可能性があり、おそらくはそれ以前より株式相場でも取り沙汰され始めるのではないか、と考えています。2022年と言えば東京オリンピックのちょうど後というタイミングです。ちょっと息の長い話となりますが、やや政治情勢に振り回され気味の現状から頭を冷やすネタとして捉えていただければ幸いです。

生産緑地とは、大胆に説明してしまうと、都市圏農地という言い方ができます。大都市圏の市街化区域において現在も残る農地で、生産緑地に指定されると、固定資産税や相続税などでの優遇が受けられる一方、営農が求められるという仕組みです。かつてバブル期に大都市圏で宅地化が急速に進んだことを懸念して、農地を残すことで保水や避難地を確保しようというのが目的でした。現在は三大都市圏(東名阪)において約6万地区、4,100万坪あるとされています。ただし、指定後30年が経てば自治体に農地の買い取りを求めることができ、自治体が買い取れない場合は指定が解除されるという条件がついています。2022年というのは、この30年の期限が集中するタイミングなのです。現在、農地所有者の高齢化や後継者難が営農義務を困難にしているという経緯もあり、期限到来時に農地買い取りを自治体に求める声は少なくないと予想されています。しかし、普通に考えれば、財政難に喘ぐ自治体が農地を積極的に買い取れるとは考え難く、多くは指定解除となるのでは、という観測が一般的なのです。とはいえ、指定解除となれば税制面での優遇がなくなるため、農地所有者は土地の有効利用を考えなければなりません。現在のところは、農地の宅地転用(アパートの建設を含む)などが進むのでは、といった指摘がなされています。つまり2022年問題とは、大都市圏ではここで一気に農地が減少し、住宅がさらに供給されるのでは、という問題と云えるのです。

もちろん、これはこれでハウスメーカーへの恩恵になると考えます。しかし、人口減や空き家問題の存在、直近数年のアパート建築ラッシュなどを勘案すると、「宅地転用の増加で住宅需要拡大」という単純な図式で捉えることはリスクがあるように感じます。住宅の大量供給により賃料の下落や空室率の上昇が発生すれば、農地所有者にとってはなんのメリットもないため、です。また、そもそも宅地転用が進むとすれば、それは生産緑地制度発足以前の状況に舞い戻ることに他なりません。当時はまだバブル経済のピーク(金融市場では既にピークアウトしていましたが)であり、人口減や空き家などはほとんど注目されていませんでした。状況が一変してしまった以上、30年前(の予測)と同じ経済行動がそこかしこに発生するという状況にはならないように思えるのです。

合理的に考えれば、宅地転用は一部で確かに進む一方、宅地以外の用途を模索する農地所有者も多数出現するのではないかと予想できます。例えば、老人向け専門住居や郊外型店舗の設置、体験型の小規模レジャー設備などが、宅地に代わる用途として挙げられるかもしれません。これら以外の用途も当然多数あると考えるべきで、概して、利便性や集客力といった観点から都市型立地であることのメリットを活かすビジネスモデルになるものと想像します。特に、これまで(都市型立地を指向するものの)都市圏でのまとまった土地確保に苦労していた企業にとっては、絶好のチャンスに映るのではないでしょうか。これらは一般の宅地程の汎用性はないとしても、その土地への来訪者を増加させるという意味で経済効果も小さくないはずです。場合によっては、都会に住みながら土いじりをしたいと考える方を対象に、貸し農園といったような形で農地を残す選択肢もあるでしょう。大都市近郊で大量の土地供給は、ライフスタイルの変化からその使途はかつてとは比べものにならないほど多様化するとともに、土地がボトルネックとなっていた企業に対しては重要な突破口になるのでは、と予想します。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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