マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル/円相場は2016年11月から2017年初にかけてのトランプラリーで101円台から118円台へと駆け上がる大相場を演じましたが、足元ではトランプ大統領の「ロシアゲート」問題がリスク回避機運を強めており、米国債市場へとリスクマネーがシフトしていることから米国債利回りが低下。日米金利差が思うように拡大しないことから、ドル/円相場の上値も限定的となっています。トランプ大統領弾劾へと問題が発展(あるいは長期化)するようであれば、トランプラリーで上昇した分が全て剥落してしまうのではないかとの指摘も出てきています。
トランプ大統領が辞める事態となれば、むしろ政策が進めやすくなるためマーケットにはプラスだとする指摘もありますが、仮にそうであったとしても、辞めることが現実となってからのラリーとなると思われますので、今からそれを期待してリスクをとるのは早計かと思われます。米国の大統領弾劾は下院が発議し、上院の議決で決定されますが、リチャード・ニクソンのウォーターゲート事件時は下院通過から辞任まで2年もかかっており、その間にS&P500は50%もの下落となっています。(ただし、この1973~1974年にはオイルショックによる景気後退が重なっているので、単純比較はできません)不透明感の払拭が、リスクテイクの条件となりますので、現状の不透明感が漂う中では、米株が高値を更新するのは難しく、米ドルが積極的に買われる地合いにはないと思われます。
政治リスクだけではありません。NY連銀の5月製造業景況指数が、マイナス1.0と前月より6.2ポイントも低下となりました。マイナスに沈むのは7カ月ぶり。また、4月の米国住宅着工、許可件数ともに市場予想を下回り、前月からも減少しており、米国経済指標には米経済の先行きが懸念されるものが出てきたこともあり、ドル金利上昇にも歯止めがかかってしまっています。6月のFOMCでは米国の利上げ織り込みが80%を超えており、ほぼ確実に利上げがあるだろうと予測されているものの、米ドルの上値は限定的となってきています。
一方で、上昇目覚ましいのがユーロ。2017年4月のフランスの大統領選挙ではリスクをヘッジする動きが膨らみました。しかし、リスクは現実となることはなく、マクロン候補勝利と無難な結果に終わったことで、ヘッジの巻き返しが起こり、ユーロが急騰。ECB理事会メンバーの、ノボトニー・オーストリア中銀総裁が6月の次回理事会で2018年の政策方針や、超低金利政策からの出口について、議論すべきだとの見解を示しており、欧州もいよいよ出口論議が本格化しそうなムード。欧州が金融引き締めに転じるとなると、米国の利上げよりも材料としては新鮮であるため、ここから本格的なテーマとなってくる可能性が大きく、ユーロは上昇トレンドに入ってきています。22日月曜日にはドイツのメルケル首相が「ユーロは弱過ぎる、ユーロ安がドイツ製品を割安にしている」と、発言したことが伝わるとユーロ上昇に勢いがついてきています。CFTC建玉明細で確認できる、IMM通貨先物市場のファンド勢(投機筋)のポジションは、3年ぶりに買い越しに転じたことが話題ですが、2週続けての買い越し増加が確認されました。こうした傾向は、継続してトレンド化することが多く、ここからの本命はユーロ上昇になってくるものと見ています。
米国の政治リスク、米経済の陰りや利上げ織り込みにもドル高とならないことに加えて、欧州の金融引き締めへの思惑で、ユーロ/ドル相場がもっとも大きなパフォーマンスを期待できると思われますが、こうした大きな相場を後目にドル/円相場は、ドル安でも、ユーロ高にけん引されたユーロ/円の上昇がドル/円相場の下値をサポートするとみられ、上にも下にも行きにくい相場となる可能性が。大規模金融緩和策を継続中の日本と、利上げサイクルに入った米国の金融政策の違いは「ドル高」を招くはずですが、いささかテーマとしては飽きられてきたようです。かといって積極的に円を買う材料も見当たらず、ドル/円相場は110~115円程度のレンジ相場に入ってしまったのではないか、と見ています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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