第102回 「フィンテック」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第102回 「フィンテック」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は小幅なレンジでの小動きといった相場が続いています。こういった膠着状態の続く時は、往々にして何かのきっかけで大きく動意づく傾向があります。半島情勢や米利上げ状況など、相場が動かない時だからこそ、より敏感に日々のニュースを見て行かなければ、と思っています。

さて、今回採り上げるテーマは「フィンテック」です。既にこのテーマは広く市場に浸透しており、幾つかの代表的銘柄は折に触れて物色される状況になっています。そういった意味ではコラムに採り上げるのがちょっと遅いと感じる方もおられるかもしれません。しかし、「フィンテック」に対しては漠然としたイメージで投資に臨んでいる方も少なくないのではないでしょうか。実は筆者もフィンテックに関しては消化不良な部分が少なからずありました。にもかかわらず、現在はやや加熱気味の相場となっていることに対し、筆者はかなり危うさを感じてもいるのです。今回はこのコラムの原点でもある「テーマの本質」というところに焦点を当て、フィンテックを論じてみたいと思います。

そもそもフィンテックとは、Finance(金融)とTechnology(技術)の合成語で、一般には金融に導入するIT技術、あるいはその企業を指して用いられています。具体的には、モバイル決済や仮想通貨、さらにはAIなどを駆使した資産運用に至るまで、広範な金融IT技術(商品)がその対象として挙げられます。概して、フィンテックの導入によって利用者は迅速かつ低廉な手数料で金融サービスを享受できることになる、という成長シナリオが描かれているかと思います。現在はさらに対象が広がり、フィンテックに利用されるブロックチェーン技術(分散型のネットワークシステム)そのものにも株式市場の注目度は高まっています。これらは利便性の向上のみならず、システムの構築・維持コストにおいても画期的に抑制できるとされています。株式市場はこういったメリットを高く評価し、金融システムの分野で大きく改革が進むことを先取りした動きになっているようです。

しかし、フィンテックが導入されたからといって、それで例えば利用者が余計にモノを購入したり消費したりするわけではありません。フィンテックはあくまで金融インフラシステムの利便性改善であり、新たな需要や消費を喚起するものではないと考えます(厳密には、フィンテック企業には実需が発生するうえ、手数料の節約分が別の消費に向かうというケースは充分考えられます)。仮想通貨が流通するようになったとしても、不必要なモノを敢えてそれで購入することはないでしょう。仮想通貨で納税できない以上は、少なくともどこかで現実通貨に換金する必要もあります。様々なメリットは多々指摘されていますが、極めて乱暴な言い方をしてしまうと、フィンテックは金融インフラの再構築に過ぎないのだと位置づけられるのではないでしょうか。筆者が消化不良としていたのは、この認識と市場の期待との間に乖離があるように感じていたため、なのです。

こうしてみると、2000年頃のITとどうしても筆者は重ね合わせてしまいます。当時は、光ファイバーの敷設浸透から、双方向的通信によるeコマース(電子商取引)を契機にインターネットへの期待値が急速に高まりました。それらはITバブルにも繋がり、当時は社名に「ドットコム」を付ければ、それだけで株価が高値で取引される状況にも至りました。その後、バブルは弾けましたが、この時代に思い描かれた成長シナリオは徐々に現実のものとなり、現在はむしろそれ以上の発展を遂げて我々の生活に溶け込むこととなりました。振り返ってよく考えてみると、2000年頃のIT関連銘柄はやはりインフラ構築や仕組みづくりが主体であり、そのインフラが浸透し、一般に活用されるビジネスが本格化してくる(つまり、新たな需要や消費を喚起する)には相応の時間を要するということなのでしょう。現在、新規上場する急成長企業の多くがインターネットを活用したビジネスであることは明らかです。明らかに当時はシナリオ先行で大相場が演じられたのですが、そのシナリオが正鵠を得ていたことは十数年を経てようやく証明されたのだと云えるかもしれません。

現在のフィンテックも、技術の凄さや利便性が強調される余りに若干シナリオ先行になっている感は否めません。しかし、もう少し時間が経ち、それらインフラが消費者の実生活に溶け込んでくるときには、新たな需要・消費を現実に創出する企業が続々と出現してくることでしょう。そういった意味では、現在のフィンテック相場はまだ序章に過ぎず、主役の登場はまだこれからなのだとも位置付けられます。こういった世の中に変革をもたらす可能性のあるスケールの大きいテーマの場合、大局観をしっかり持って相場に臨むことは非常に重要なのです。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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