マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
今週14日水曜日は、米国6月FOMC(連邦公開市場委員会)が開催されます。リーマンショックによる金融市場の混乱を受け、FRB(米連邦準備制度理事会)は、政策金利をゼロに引き下げた他、住宅ローン担保証券や国債を買い入れる形で緩和政策を続けてきました。政策金利を引き下げることで、金融を緩和する「伝統的金融政策」と、国債などの資産を中央銀行(FRB)が買い入れることでマネタリーベースを拡大し、市中に潤沢な資金を供給する「非伝統的金融政策」によって米国経済は回復してきたのです。この金融政策の効果は、FRBのデュアルマンデートと呼ばれる2つの法的使命である「完全雇用(雇用の最大化)」と「物価の安定」、これは雇用統計数字と消費者物価指数を見れば確認できますね。
リーマンショックの教訓からFRBは、金融緩和によってバブルを作らぬよう(バブルが形成されればそれが弾けることで大きな痛みとなります)、そして再び不測の事態が起こり、マーケットが不安定になった時に金利を引き下げることで、緩和政策を取ることができるようゼロ金利から「金利を正常化」させたいとして、2015年12月、2016年12月、そして2017年3月の3回、政策金利の引き上げを実施してきました。そして今週には、4回目の利上げが実施されることが目されています。(金利正常化のターゲットは1%以上の金利とされています)金利先物市場における、6月利上げ織り込みは90%を上回っているため、むしろ今回は利上げを見送ることの方がリスクと見られており、利上げはほぼ確実とされています。中央銀行は、現在のマーケットのコンセンサス通りに政策運営することも重要で、サプライズが起きればマーケットは混乱します。(2016年1月の日銀のマイナス金利導入が悪い例でした。直前までマイナス金利導入を否定していた黒田総裁を信じ切っていたマーケットは、サプライズのマイナス金利導入で混乱し、政策導入の思惑とは裏腹に大きな円高ドル安を招きました)
しかしながら、利上げが見込まれているというのにドル高が進行しません。少なくとも過去3回の利上げ実施時には、市場のコンセンサスであった利上げ予想を反映する形で、FOMC直前に向けてドル買いが優勢となり、ドル/円相場も上昇する値動きがみられました。しかし、今回はこの「利上げ織り込み」での上昇が起こっていないのです。何故なのでしょうか。
これまでの過去3回の利上げの時と大きく違う点は2つ。ひとつは利上げ織り込みの注目度。今回の利上げは、1か月以上前から利上げがほぼ確実視されており、すっかりマーケットには織り込まれてしまっています。少なくとも過去3回の利上げの時は、利上げ織り込みが直前までドルを動かす材料となってきました。ひょっとしたら利上げを実施しない可能性も孕むという中での利上げ織り込み度が、マーケットでは重要な指標となってきたのです。
※利上げ織り込み度はCMEのHPの「CME FedWatch Tool」
で見ることができます。
今回は、金利先物市場での米利上げの織り込みがあまりに早く進み過ぎたことで、FOMCにて利上げの発表を待たずに、ドルを買う動きが消化されてしまったというわけですね。このため、マーケットの関心は6月の利上げではなく、その先の利上げに焦点が移ってしまっています。前述した「CME FedWatch Tool」を確認すると9月の利上げ織り込みは23.6%、12月の利上げ織り込みは39.2%です(執筆時点)。一般的に利上げ織り込みが60%を上回らなければ利上げ実施はないとされていますので、現時点では6月利上げで打ち止めとなり、年内は追加利上げが行われない可能性が示唆されているとみることができます。つまり、マーケットは今回の利上げではなく、その先の利上げ織り込み度を意識してしまっているということですね。
もう一つは過去3回の利上げ時にはなかった、テーパリング議論が同時に注目されていることが挙げられます。テーパリングとは資産買い入れの縮小のこと。国債などの資産を買い入れることでマネタリーベースを拡大し、市場に資金を供給してきた量的緩和策ですが、新たに買い入れる金額を減らすテーパリングは、2014年10月に無事終了しています。しかし、新たな資産買い入れを止めマネタリーベースの拡大は止まったものの、FRBは償還が来た債券を再投資することで、その残高を一定に保ってきました。つまり市場に供給されているお金は、2014年10月以降も減少してはいなかったのです。今回議論されているテーパリングというのは、再投資を止めてマネタリーベースの縮小という形の出口論。これは、マネタリーベースの縮小につながるもので、利上げ以上の金利上昇圧力があるとして警戒されています。これによって金利が急騰すれば、株式市場への悪影響は必至。FRBは、金利急騰や株式の暴落といった過敏な反応を避けるため、この議論が浮上していることを随分前からアナウンスしており、マーケットに織り込ませようと試みていますが、市場は今週14日のFOMCでこのテーパリングがいつ、どのような形で始まるのか議論される可能性に警戒を強めており、株式市場には手仕舞いの兆候が出始めていることもドル/円相場にとっては上値が重い要因の一つであると思われます。
今週のFOMCの注目ポイントは、利上げではありません。年内追加利上げの可能性と、テーパリング議論。マーケットには慎重な見方が多く、ドル/円相場は上値が重い展開を強いられていますが、イベント通過となれば悪材料出尽くしで買い戻される可能性もあるのではないか、と思っています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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