第111回 「中央銀行人事」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第111回 「中央銀行人事」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。日経平均は遂に21,000円にヒットし、実に1996年以来、21年ぶりの高値を更新しました。引き続き、解散・総選挙は「買い」という経験則に沿った相場展開が続いているようです。むしろ焦点は、選挙後にどれだけ材料出尽くし感が生じるか、に移りつつあると云えるのではないでしょうか。

さて、今回は現在のやや熱狂的な相場展開から一歩距離を置き、「中央銀行人事」をテーマに採り上げたいと思います。実は、我が日本国の中央銀行である日本銀行の総裁、そして日本と経済で密接な関係にある米国の中央銀行とも云えるFRB(連邦準備理事会)の議長は、来年早々にそれぞれ任期を迎えます(日銀総裁の任期は来年2018年4月まで、FRB議長の任期はやはり2018年2月まで)。これから年末に向けて、次期総裁、次期議長についての人事観測報道が徐々に増えてくることでしょう。当然、中央銀行の総裁・議長はその国の金融政策の決定権者であるために、今後の景気動向に大きな影響を与えることになるため、です。株式市場も後継人事に関しては固唾を呑んで注目することとなるはずです。ただし、人事であるために、外からの分析や予測はあまり当てにはなりません。このコラムであれこれと次期総裁・議長を予想することも、あまり意味はないと考えます。むしろここでは、選出された後継総裁・議長のスタンスが株式市場にどう反応していくか、をまとめておきたいと思います。

なお、中央銀行に関して、ここで簡単にその構造をおさらいしておきましょう。中央銀行は「通貨の番人」とも云われ、1つの通貨に一つの中央銀行が存在しています。中央銀行は、自身が発行するその(1つの)通貨に対して、その価値と信用を安定させていくことがその大きな存在目的となっています。普段、我々が何気なく使っているお金は日本銀行の発行する「日本銀行券」なのですが、その価値は日本国政府の信用によって担保され、日本銀行はその価値の維持に注力する、という構造です。ちなみに、政府や中央銀行を持たない仮想通貨は、その信用をブロックチェーンなどのシステムで担保しているということができるでしょう。そして、その中央銀行総裁・議長は、その時の政府が候補者を指名し、議会で承認されることよって決まります。一般に、任期が満了するまでは当事者の意志に反した解任はできず、一旦選ばれれば、任期期間中は総裁・議長が独自の判断(正確には理事会)で金融政策をリードできるという仕組みです。これは、「通貨の番人」としての職責を全うするためには政府の思惑などに左右されてはいけない、という思想がその背景にあるために他なりません。だからこそ後継人事が、正確にはその後継者の金融ポリシーが、非常に重要となってくるのです。

現在の黒田日銀総裁は、これまで何度もバズーカを打ち放つ積極的な金融緩和論者として定評があります。これらはアベノミクスの第一の矢として景気拡大の下支え要因となりました。ただし、その金融緩和の結果、日銀の総資産は(国債買い入れによって)急速に膨れ上がり、「通貨の番人」としての機能が損なわれつつあるのでは、といった指摘も出て来ています。後継総裁がどこかの段階で金融緩和路線の軌道修正を模索する可能性は否めません。早々に金融引締路線に転換すれば、株式市場には相当な逆風が吹くことになるでしょう。そのことを考えると、後継総裁の金融スタンスに対して株式市場はかなり神経質な展開に転じてくるのではと想像します。一方、米国のイエレンFRB議長も、金融緩和派という見方が一般的です。FRBは2016年12月に1年ぶりの利上げを行い、それまでも、そしてその後も、利上げ観測は燻りますが、そのペースはゆっくりしたものに留まっています。米国景気の回復が鮮明であることを考えると、今後の利上げピッチを後継議長がどう考えるかもまた、非常に重要と云えるでしょう。

もちろん、黒田総裁、イエレン議長が再任されるという可能性も十分あります。両トップともこれまでの采配は見事であり、批判も目立ったものではありません。リーマンショック後(日本の場合は何年も続くデフレという特殊状況)の危機状態からの正常化という微妙な差配が要求される状況において、金融政策の継続性を考えれば、そのシナリオはむしろ可能性が高いとも思えます。いずれにしても、次の総裁・議長の金融政策スタンスは要注目であることは間違いありません。そして、報道などで名前が挙がった後継候補に関しては、その方の金融政策ポリシーを頭に入れておくことが、今後の株式投資方針を考えて行くうえで重要なカギになるものと位置付けます。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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