第117回 「インフレーション」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第117回 「インフレーション」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。新年あけましておめでとうございます。新年はいかがお過ごしでしたでしょうか。2018年も本コラムをよろしくお願いいたします。注目の株式相場は、大発会からロケットスタートとなりました。米国の景気好調に加え、対話の進行により朝鮮半島懸念が若干緩和されたことなどを好感した格好です。相場の腰の強さも確認できたことから、日経平均見通しも一層強気の声が増してきたようにも感じています。筆者も強気派の一人ですが、あまり急な上昇には警戒感を抱かざるを得ません。相場がホットであればあるほど、相場を見る眼はクールにしておきたいところです。

さて、今年最初のテーマは「インフレーション」を採り上げたいと思います。実は筆者は、2018年はようやく、本当にようやくデフレからの脱却が実現するのではないか、と感じています。おりしも、今上陛下のご譲位の日程が固まり、平成から次の時代へとバトンが渡される日が見えてきました。時代の変化という偶然も、デフレ脱却に向けて心理的下支え要因となるようにも思えます。そして、仮にこの見通しが実現するとすれば、株式市場でもそれに先んじて「インフレ銘柄」というものに注目が集まってくるのではないか、と考えるのです。昨年暮れより日経平均3万円の可能性が取り沙汰されてきましたが、筆者はインフレ期待の台頭がそのための条件になるのだろうと位置づけていました。2018年に入って、ようやくその条件の現実性が増してきたと考えたわけです。換言すれば、日経平均が3万円に到達する時には、こういったインフレ銘柄が最もよいパフォーマンスをするのではないか、と想定するのです。もちろん、AI関連やIoT関連などによる相場の牽引は継続するのでしょうが、日経平均をもう一段引き上げていくためには、やはりデフレ退治がカギであり、インフレ銘柄の躍進が不可欠だろうと想像しています。

インフレとは物価が上昇する(貨幣価値が低下する)ことですので、資産価値の維持には現金で持っておくよりもモノに換えた方が有効である、という図式が成立します。実際、インフレの時代であった昭和の時代は、借金してでも投資を実施した会社や個人が結果的に大きく成長し(もちろん、失敗例も多くありますが・・)、現預金を貯めこんでいた会社や個人は(安定はしたものの)相対的にじり貧を余儀なくされた時代でもありました。個人消費という観点でも、物価の上昇が賃金の上昇を誘引したため、借金をした当座は苦しくとも、インフレの進行によって借金の重圧は加速度的に緩和されていったのです。まさに「借金した者が勝ち」という状況で、借金してでも不動産を買い漁った企業が大躍進したのもこの時代でした。対照的に、平成のデフレ下では、物価が下落するために借金の重圧は日を追って重いものになってしまいました。下手に焦って投資をするよりも安全資産として現金を抱えていた方が資産価値を保全できた時代です。このデフレが終了し、インフレへの時代転換が起こるとすれば、企業や個人の投資・消費行動が劇的に変化することになるでしょう。単純に、値上がりする前にモノを買おうとする人が増えれば、それだけお金が回り始めることになります。それらが企業業績や金融市場に好影響を与えないはずはありません。

では、インフレ関連としてどういった業種・銘柄に注目すべきでしょうか。一般に、インフレ銘柄とされるのは不動産や金融、資源、商社などがその代表格となります。物価が上がる局面においては、これら(資産を抱える性格)の業界では(極論すれば)黙っていても追い風が吹く状態になるのですから。もちろん、その他の業種でも投資・消費の活動水準が上昇するに伴ってビジネスチャンスは拡大していきます。そして、そもそもインフレ下では、企業価値が不変であってもその価格は(貨幣価値の低下により)上昇するはず、です。むしろ、インフレメリットを受ける業種は上記の代表業種にとどまらないと考えるべきでしょう。当然ながら、こういった期待感はデフレから実際に脱却してから高まるのではなく、脱却の可能性が高まってきた段階から高まっていくことは言うまでもありません。

長らく(過度な)インフレは「悪」であり、日銀も戦後は一貫して「インフレファイター」としての役目を至上命題としてきました(過去にデフレ局面はありましたが、いずれも戦前のこと)。今やインフレをこれほどまでに待ち望む時が来るとは、実に感慨深いものがあります。過去20年、これまで何度もデフレ脱却は頓挫してきました。今回こそは違うのか。はたまた、かつてと同じ轍を踏むことになるのか。これは2018年の最大のテーマになるのではないでしょうか。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧