マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル安が顕著となってきました。円やユーロ、ポンドやカナダドルなどの主要通貨に対しての米ドルの総合的な価値を指数化した「ドルインデックス(ニューヨーク商品取引所)」は、トランプ大統領誕生直後の猛烈なドル上昇時に103.60ポイントまで上昇していましたが、足元では90.20ポイント台にまで下落しています。トランプ大統領誕生時に一気にドル高が進行したために、テクニカル的な節目がない「真空地帯」を滑り落ちていきそうな形状のチャートとなっており、このドル安のトレンドはしばらく続きそうに見えます。何故、世界に先駆けて2015年には利上げを開始、以降継続して利上げを実施できるほどに、株価も景気も絶好調である米国の通貨ドルが売られているのでしょうか。
前述したドルインデックスの構成比は、ユーロが57.6%、円が13.6%、ポンドが11.9%と圧倒的にユーロの比率が高いため、ユーロが上昇していることで、ドルインデックスが下落している、という側面が大きいのですが、今回のドルインデックスの下落は、ユーロ上昇だけではなく、円とポンドの上昇も重なっており強力なトレンドとなっています。ドル独歩安の様相を呈しているのです。
米国株、日本株をはじめ、世界好景気を映して世界の株が高く、原油や貴金属などの商品市場が高いといういわゆる「リスク資産」が買われる相場の時には、ドル/円相場も上昇し、対円通貨(ユーロ/円、豪ドル/円、カナダドル/円などのクロス円通貨)も上昇するのが教科書的な値動きですが、足元ではドル/円、クロス円通貨は強くありません。円高も顕著なのです。先週のコラムで、株高を材料にクロス円通貨の上昇が面白くなりそうと書きましたが、どうも見通しは外れたようです。1月9日に日銀が実施した国債買い入れオペ(公開市場操作)で、超長期国債の買い入れ額を減らしたことで、日銀の出口が意識されたとの指摘もありますが、これを好機とみた投機筋が円買いを仕掛けているようです。日経平均が23,000円の大台に乗せる強さを見せる年初からの値動きに反しドル/円が下落しており、株価と為替が逆相関となっていますが、仮に日銀の出口戦略への思惑が影響しているとするならば、先々の金融政策転換への思惑による円買いということになります。
そして、構成比60%近くを占めドルインデックスへの影響力が大きいユーロ。1月第2週となった先週、ユーロ/ドル相場はこれまでの高値抵抗を突き抜けて1.2200ドル台へと上値を切り上げました。材料の一つは、12月のECB理事会の議事録要旨が公表され、その内容は市場が予想していたよりもタカ派(引き締め的)であったこと。「リフレが続けば、言い回し変更が必要との点で合意」「2018年の早い時期にガイダンスの段階的なシフトについて検討」との文言が確認されたのです。ECBはQE(量的緩和)の重要性を強調することをやめ、物価上昇率がECBの目標である2%弱に達する前にQEを段階的に縮小する可能性があることを示すと受け止められたこと、さらにはこれを受けて短期市場では、来年6月までに2回の0.1ポイントの利上げを完全に織り込むところまで利上げ確率が上昇しています。
加えて、ドイツの二大政党が正式な連立協議開始で合意した、というニュースがユーロ上昇に拍車をかけました。極右政党の台頭に対する懸念、政権の先行きへの懸念が払拭されたことで、政治リスクからユーロの下落する可能性が排除された格好です。後は金融政策だけを見ていればいい、ということになったわけです。ユーロもまた、先々の金融政策への思惑が織り込まれた上昇であったといえるでしょう。
つまり、2015年の第1回の利上げから3年目に入る米国の金融政策には驚きがなくなっている中で、日銀やECBの政策転換には新鮮味があるということです。マーケットは鮮度の高いテーマに敏感に反応して織り込みを始めるものです。
特に日銀の買いオペ減額が与えたインパクトが大きかったのではないか、と思っています。日銀はイールドカーブ・コントロールと呼ばれる金融政策で、日本国債の長期債利回りをゼロ近傍に固定してしまっています。これが「アンカー」となり、世界の長期債利回りの上昇を阻んでいるとの指摘が一部にあるのですが、1月9日の買いオペでこれがそう遠くない将来に政策転換もあるのではないか、との思惑に繋がったとすれば、世界の金利を低く抑える一因となっていた重しが外れると市場が受け止めたとも考えられます。日銀の政策転換が、世界の金利を上昇させる可能性があるということです。現時点では、日銀は早期の政策変更を否定していますし、世界の長期債利回りもはっきりと上昇基調に入ったというわけではないのですが、マーケットは先々を織り込んでいくものです。日銀の買いオペ減額がもたらした世界の債券市場(金利)への影響は、思ったよりも大きいのではないでしょうか。
今年は、出涸らしとなった米国の利上げよりも、欧州、日本をはじめ、英国、豪州、カナダなど世界の利上げに為替市場が敏感に反応していくものと思われます。要するにドル安は年間通じてのトレンドとなる可能性が大きいと考えています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
TwitterAccount
@hirokoFR
マネックスからのご留意事項
「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。