マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週は東京の大雪に群馬の草津白根山噴火など、自然災害が相次ぎました。被害に遭われた方やご家族には心からお見舞い申し上げます。これら自然災害への備えはより急務となってきているように思えます。一刻も早い対応が望まれます。一方、日経平均株価は遂に26年ぶりの24,000円に一時到達しました。ロケットスタートとなった2018年ですが、依然として株価の上昇基調は継続しているようです。筆者が警戒していた急ピッチの株価上昇も、ここにきて適度な日柄調整が入ってきており、相場は依然として健全と云える範囲にあるものと考えています。
さて、今回のテーマは「親子上場」を採り上げたいと思います。先日、通信事業などを傘下に持つ持株会社ソフトバンクグループが、子会社の通信大手ソフトバンクの株式を上場させるとの観測記事が報道されました。この報道に対して、ソフトバンクグループは「上場も選択肢の一つ」とコメントし、その可能性に含みを残しています。株式市場でもこの報道には相応の反応が見られたのですが、筆者はむしろこの親子上場というちょっと懐かしい(笑)スキームが再び出てきたことに新鮮な驚きを感じました。そして良く考えてみると、親子上場は今後も増えてくる可能性が増してきたようにも思えます。そこで今回のコラムでは、この親子上場に対する投資スタンスについて、一度考え方をまとめてみたいと思います。
そもそも親子上場とは、親会社と子会社が共に株式公開をしている状況を指します。1960年代くらいからそういった例が日本では増え始め、1990年代には相当数の親子上場が存在していました。子会社は上場会社となることで知名度も上がり、人材採用や資金調達においても多くのメリットが期待されたため、です。また、親会社による資金調達といった側面もありました。子会社のままでの上場であれば、その経営権を失うことなく、また(エクイティファイナンスによる)自社株式の希薄化を招くこともなく、まとまった資金を得ることができたのです。しかし、資本市場がより重要視され始めたバブル崩壊以降は、親子による利益相反懸念や子会社と云えども(親会社が)経営介入し難いといったデメリットも台頭してきます。そこで、近年は資本関係の解消や完全子会社化による親子上場解消を図るケースが相次ぎ、親子上場しているケースはかなり減少してしまったというのが現状です。親会社の視点で単純に考えると、戦略的に重要な子会社は100%株主として経営(と利益)をグリップしておくのは当然ですし、その重要性が低下した子会社とは資本関係を継続しておく必然性が低下すると考えるのも合理的でしょう。経営のガバナンスが効けば効く程、中途半端な親子上場は淘汰されるのが自然な流れであったのです。筆者が新鮮な驚きを持ち、かつ「懐かしい」と感じたのはこういった過去の経緯があったためなのです。
にもかかわらず、親子上場が久々に登場してきました。このことは、親会社にとって(極論すれば)子会社戦略は完全子会社化か資本解消という(オール・オア・ナッシング的な)二者択一しかなかったという近年の流れに対し、よりマイルドな第三の選択肢として親子上場が浮上してきたことを意味しているように思えます。あるいは、二者択一の進展は60~90年代の(やや無秩序な)親子上場の整理整頓であり、今後発生する戦略的な親子上場はそれとはかつてとは一線を画して考えるべき、と位置付けられるのかもしれません。実際、業績は順調だが親会社との戦略連関性が希薄となってきた100%子会社をどう対処するか、は親会社にとって非常に重要な問題です。完全に資本解消するには株式の買い手を見つけてこなければなりませんが、子会社の規模が大きければ、(資金力を有する)買い手候補も限られてしまいます。しかも、買い手が見つかるまでだらだらと子会社を抱え続けることとなり、投資負担やガバナンスの問題を含め、相当の経営リスクに晒されかねません。そういった事態を回避するために、株式公開により出資比率を引き下げておくというのが一つの選択肢であることは確かなのです。当該子会社にとっても、連関性の希薄となった親会社の影響度を薄め、経営の自由度が向上する上場は望むところと云えるでしょう。であれば、今後、親子上場を上手く活用する企業が出現してくる可能性は高いのでは、と想像されるのです。
そういった戦略は当然、株式市場の評価するところとなります。冒頭のソフトバンクグループのケースでは、かつて喧伝された親子上場の弊害よりも、より戦略的な資本政策への期待が株価に反映されたように思えます。今後も、強力だが戦略連関性の低い子会社を有する親会社については、親子上場によって資本効率の改善を図っていく可能性が高いとして、ウォッチしていくべきかもしれません。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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