秋元里奈
2021.10.4

自分にとって何が大切かを
言語化する秋元里奈/食べチョク代表

生産者と消費者をつなぐ
産直通販サイトを立ち上げ

25歳で起業し、産直通販サイト『食べチョク』を立ち上げた秋元里奈さん。生産者にとっては自分自身で価格を設定できる。ユーザーである消費者は、収穫から最短24時間以内という鮮度の高い食材が買える。新たな流通経路を開拓した『食べチョク』は、どちらにもメリットの大きいサービスとして成長を続けている。

秋元さんの実家は農家だったが、親からは「継ぐな」と言われた。なぜかと言えば、儲からないから。かつて大好きだった実家の畑には何も植えられず、廃れてしまった。その光景を見て、農業への想いが高まった。今は、『食べチョク』を通じて、苦境に立たされる一次産業と消費者に貢献できることに喜びを感じている。

「一次産業の生産者さんには、消費者の声を聞く場を提供して、販売先の選択肢を増やせているのかなと。消費者の方々には、利便性でモノを買うというところから生産者とのつながりやストーリーをお届けして、日々の食卓を豊かにできているのではないかと思います」

失うとなかなか取り戻せない
信頼を大切に

起業当時から、当事者である農家の生の声を聞くことを大事にしてきた。それは、サービスが軌道にのった今も同じ。コロナ禍によって、現地に出向くことが難しくなった時は、TwitterやClubhouseなどSNSを活用し毎日30分から1時間、生産者との対話を続けた。現在は、ひと月に一回は時間を見つけて生産者の元へ訪問し声を聞いている。

「生産者さんとの接触頻度を下げないために始めたんですが、最近ではリアルでも実際に生産者さんのもとを訪ねる機会を増やすなど、コロナの感染状況を鑑みながら様々なやり方で生産者さんとの繋がりを大切にしています」

生産者の生の声を聞き続けていたからこそ、他に先駆けて、災害の翌日にサポートサービスをリリースできた。昨年の大雨災害時は、かなり前から大変なことになりそうだと聞いていたため、あらかじめ持っていたアイデアをスピード感を持って実現できた。

「最近は、『食べチョク』だったら話を聞き、動いてくれるという生産者さんからの信頼を感じられます。世の中には、取り戻せるものと取り戻せないものがあると思うんです。お金は失うと大変ですが、取り戻せるものではありますよね。でも、積み上げてきた信頼関係は、一度失うと取り戻すのが難しいもの。だからこそ、大切にしていきたいんです」

現在、注力しているのは、生産者と消費者との関係性の強化。そこでも、相互間での信頼関係が不可欠だ。

「固定ファンが商品の代金を先払いして、生産者が収入の目途が立った状態でスタートできるのが理想です。でも、当たり前ですが、何の感情もない人に先払いはできないので、1回買っておいしかったという体験から、関係性を深められる場をつくることが、『食べチョク』が最終的に目指す姿です」

お金はやりたいことを
実現するための手段

いまやトレードマークとなった『食べチョク』のTシャツを着て、生産者と消費者を繋げるために「基本的にはずっと仕事をしている」という秋元さん。

「私にとって働くということは、やりたいことの延長線にあるもので、切り離せないんです。だから、〝仕事=人生〟の今の状態が苦にならないんですよね。投資にもいろいろあると思うんですけど、人は仕事に対して、人生のかなりの時間を投資しますよね。なので、時間の使い方は意識しています」

もちろん、仕事である以上、好きなことだけを選ぶわけにはいかない。それでも、なるべくストレスに感じず、ポジティブな自分でいるためにやっているのが、自分を客観視すること。創業して1年ほど経った頃に受けたコーチングで学んだという。

「コーチングによって、私は、経済的欲求がない一方で、人に感謝されたいといった貢献欲求が強く、自分の存在意義を感じられることをしたいという気持ちが明確になりました。『実家のルーツである一次産業領域に興味を持った私にとって、目の前にいる生産者さんに喜んでもらうことが、自分自身の幸福に直結する』と言語化できるようになってからは、あまり悩まなくなりましたね。お金は、事業を大きくして、幸せにできる人を増やすためは絶対的に必要ですし大事です。でも、あくまでこの人生でやりたいことを実現させる〝手段〟であり、私にとっては、目的やゴールではないんです。自分が死ぬときには、自分だから生み出せた価値があってよかったと思いたい。そして、大切な人がたくさんいてくれたらいいなと思います」

秋元里奈
秋元里奈

ビビッドガーデン代表取締役社長。1991年生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学理工学部卒業。DeNAでwebサービスのディレクターやアプリのマーケティング責任者など4部署を経験。2016年11月に株式会社ビビッドガーデン創業。2020年4月にアジアを代表する30歳未満の30人「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出。2020年9月に報道番組「Nスタ」の水曜レギュラーコメンテーターに就任。その他、「スッキリ」コメンテーター、「セブンルール」、「カンブリア宮殿」などに出演。

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