家を買った後にどうするか(2)~ 繰上げ返済は万能ではない

お金のドクター、中村芳子がお金にまつわるさまざまな悩みに、専門家としてアドバイスします。(現在は更新しておりません)

家を買った後にどうするか(2)~ 繰上げ返済は万能ではない

● ちまたで人気の繰上げ返済
ボーナスなどまとまった資金が手元にあるときに「どこかに預けるより、繰上げ返済が絶対お得!」という教えが、ここ数年ちまたで広まっている。
確かに繰上げ返済の効果は大きい。たとえば残高が2500万円、残りの期間が25年あるローンを、約100万円繰上げてローン期間を短くすると(ほかに毎月の返済額を少なくする方法もある)と、期間が約1年半短くなり、利息を約100万円払わずにすむ(金利3%の場合)。効果は金利が高いほど、残りのローン期間が長いほど劇的に大きくなる。

低金利の今、これ以上「数字上のインパクト」のある金融商品や運用方法は存在しない。なんてったって100万円で100万円節約ですから。そういうわけで、家を買ったばかりのカップルに「貯蓄の目的」をインタヴューすると、十組中九組が「繰上げ返済で〜す」と答える事態になっている。

でも、本当に繰上げ返済はそんなにいいのだろうか。

● 繰上げ返済をめざすと「運用」ができなくなる

まず気をつけたいのは、100万円以上利息支払いを減らせるといっても、その恩恵にあずかれるのは20数年後、今35歳なら、60歳近くになってからということだ。30代の100万円と、60歳ちかくになって1年半早く住宅ローンから解放されることで手元に残る200万円。その間のインフレを考えても単純に金額だけを比べることはできないし、年齢によって金額の重みが変わってくることも考えたい。

また、貯蓄の目的が繰上げ返済だと、2〜3年ごとに100万円くらい貯まったら返済するというのの繰り返しになる。期間が2〜3年だと、当たり前だが安全な金融商品に預けるしかない。ということは運用利回りはほぼゼロだ。これをずっと続けると、長期的な視点にたった資産運用ができなくなる。

40代から老後資金を貯める場合でも、運用期間が10年を超える長期なのでかなりリスクを取れる。つまり全体の50%とか、場合によってはそれ以上を、利殖型の株式(投資信託)や外貨建ての商品で運用できるわけだ。結果として20年後に、平均運用利回りが5%や7%を超えるというのは決して非現実的な予想ではない。
  
● 金利2〜3%台のローンは、将来お宝ローンになるかも

ましてや、今2〜3%台の固定金利で住宅ローンを組めたのなら、金利水準が上がって、定額貯金の金利が4%にでもなれば、そのローンはお宝ローンに変身する。借入れ金利より確実に高い金利で運用できるようになるからだ。
にもかかわらず、2%台の住宅ローンの残高を少しでも減らそうと、2年ごとに繰上げ返済を目指すのは、本当に正しいことだろうか。私だったら、そんなことはしないけど。

● それでも繰上げ返済したほうがいい人
とはいっても、何はさておいても「繰上げ返済をするべき」人たちもいる。最初にローンを借りすぎた人たちだ。頭金ほとんどゼロで買った若いカップルは、ほとんどすべて該当する。

借りすぎとは、簡単に言えば年収の4倍を超える住宅ローンを借りた場合だが、他にも、次のよう徴候があれば借りすぎの恐れがあり、手元に余裕資金があれば、すぐにでも繰上げ返済した方がいい。つまり、
1)価格の2割未満の頭金で住宅を買った
2)月々の住宅ローン返済が負担なので返済額を減らしたい
  (目安は年間返済額が手取り年収の25%以上)
3)返済終了が65歳以降である   
という人たちだ。

これらが当てはまる人は、無駄遣いをやめてせっせと貯蓄して繰上げ返済をしないと、ローンに押しつぶされる恐れがある。ただし、不意の出費や教育費などのための十分な貯蓄があることが大前提だ。繰上げ返済したために、手元に現金がなくなって車をローンで買ったり、予定外の出費のためにキャッシングというのはおかしな話で、大損となる。
 
住宅ローンは月々の負担が大きすぎず、退職までに返し終わるようなら忘れてしまい、手元の余裕資金は上手に運用するか、あるいは上手に使うことを心がけた方がいい。あとは金利状況が大きく変わったときや、人生の節目などに、「借り換え」や、できる場合は「金利タイプの変更(変動←→固定)」「返済期間の変更」を検討すればいい。

資産運用と同様、最初にじっくり考え選んで決めたら、後は忘れてしまえるのが、最上の「ローン設計」だと思うがいかがだろう。最近よくある「最初から繰上げ返済をするつもりのローン設計」は疑問だ(一部例外はありますが)。
人生は予定通りに行かないから、そのときは見直しが必要ですけどね。

(ファイナンシャル・プランナー 中村芳子)

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