ヘッジファンド投資のプロセス (13)「解約:ドリフトとキャパシティ」

シブサワ・アンド・カンパニー渋澤健が綴る「オルタナティブ投資」の世界。「オルタナティブ投資」が目指す絶対的収益の根源とは?(現在は更新しておりません)

ヘッジファンド投資のプロセス (13)「解約:ドリフトとキャパシティ」

 前回は、「ストップロス・ルール」によるヘッジファンド投資の「損切り」を説明しましたが、これは投資家の判断が入らない定量的なルールです。ただ、ヘッジファンドを解約するには定性的な判断も必要な場合もあって、こちらのほうが投資家にとって難しいことです。

 例えば、ヘッジファンドが「戦略ドリフト」をしたとき。投資前のデューデリジェンスの段階では、ヘッジファンドの戦略分野におけるエッジ(優位性)は主なる検討事項です。しかし、投資した後にその戦略分野の収益チャンスに限界がある市場環境に入ってしまったので、ヘッジファンドは別の戦略に流れてしまった。これが戦略ドリフトです。

 その衝撃的な例が98年に破綻したLTCM。彼らのエッジであった債券裁定(短期・長期債券などの間の歪みを収益源とする)に特化しつづけていて、他の分野に進出して(かつレバレッジ度を高めて)いなければ、まだ存在していたかもしれません。

 ただ、投資家にとって難しい判断は、収益が上がっているようであれば、ヘッジファンドが戦略ドリフトしていることと「戦略分散」や「機会収益を追及」と片付けてしまうことが可能であるからです。本当に新しい分野で「スキル」で収益を上げていて継続性があるのか?それとも「たまたま」なのか?

 一方、損失を出していたとしても、それほど下げていなければ、まだこの戦略変更で儲かるかもしれないという迷いも生じるでしょう。しかし、「ストップ・ロス」の水準まで下げていなくても、収益の継続性に疑問があれば、投資家は解約するという判断を下す必要があるかもしれません。

 最近、業務を停止して資金を返還したマリン・キャピタル・パートナーズ。彼らのエッジである転換社債裁定に収益チャンスが無くなったという判断で、別の戦略に投じることなく、自ら業務停止をしたことは、ある意味で賢明です。
 ヘッジファンドのサイズと戦略が効率的に運用できるキャパシティ(容量)がその市場に存在するかということは最も重要な判断です。この場合は、マネジャー側がノーという判断を下しました。(まあ、損失を出す前に、この判断を下していたほうがもちろんベターでしたが。)プロフェッショナル投資家であれば常にそのマネジャーの戦略とサイズを市場のキャパシティとの合理性を把握し決断しなければなりません。

 最後に、ヘッジファンド解約で一番、難しい問題です。損をしているファンドではなく、戦略ドリフトやキャパシティの問題もなく、素晴らしいパフォーマンスのヘッジファンドの場合です。例えば、ヘッジファンド10件に均等10%を配分した1年後、9件が5%上げて、1件が100%上げたとしましょう。とても極端な例ですが、3年間、このパフォーマンスを繰り返しました。ポートフォリオは全体で+80%強の収益。投資家はハッピーのはずですよね。
 ところが、このポートフォリオの中身を見てみると、9件の配分が6%ぐらいに減少、そして1件のスーパースターのヘッジファンドが40%強のシェアを示しています。これでは、ポートフォリオのリスク分散が効かなくなります。40%配分のヘッジファンドがそのまま儲けつづけてくれればウハウハですが、例えば逆に急に大損してしまった場合にはポートフォリオには大きな打撃を負います。

 これが株式という「顔なし」のポートフォリオであれば、判断は少し楽になります。とりあえず利食っておいて、下がったらまた買おうと。ところが、ヘッジファンドの場合、一旦解約したら、「何?オレを信じてくれないのか?」と次回は投資させてくれない可能性は充分あります。売れっ子マネジャーでクローズドしているヘッジファンドであるこそ、この傾向があります。

 ヘッジファンド投資の難しさ、深さ、と面白さは、その対象が単なる商品ではなく、人という感性と感情があるということです。

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