第21回 信用取引の売り残高増加銘柄の検証と分析 ~増資に関係する売り残高の増加~

株式会社インベストラスト代表取締役 福永博之氏が、信用取引の基礎から応用までを解説しています。

第21回 信用取引の売り残高増加銘柄の検証と分析 ~増資に関係する売り残高の増加~


株式会社インベストラストの福永博之です。今回は信用取引の売り残高増加銘柄の検証と分析を行いたいと思います(ちなみに、信用取引の増加、減少などのランキングは、ヤフーファイナンスで、無料で見ることができますので確認してください)。

では早速ですが以下のランキングをご覧ください。これは2012年7月9日から13日までの信用取引における売り残高の前週比増加ランキングです。

それでは、どういった業種が多いのかから見てみましょう。上位には海運、鉄鋼、建設、証券などが並んでいますが、鉄鋼と海運が2銘柄ずつランクインしています。また、この2つの業種では鉄鋼の2銘柄が上位に並んでおり、売り残高が増えているのがわかります。

売り残高の増加は将来の買い要因となるため、増加傾向が続くようですと、どこかの時点で買い戻しの動きが強まり、一時的にせよ株価の反発要因になると、これまでお話ししてきましたが、そう考えた場合、これらの銘柄のなかで圧倒的に売り残高が増加している川崎汽船の今後の株価動向をどのように考えればよいのでしょうか?

図表:信用取引の売り残高増加銘柄ランキング
(2012年7月9日から13日までの信用取引における売り残高の前週比増加ランキング)

(図表:株式会社 インベストラスト 作成)

川崎汽船の売り残高は前週と比べ、この1週間だけでおよそ2.28倍に増加していますが、将来大幅に上昇するのでしょうか?みなさんはどう思われますか?

そこでひとつの重要なポイントについてお話ししたいと思います。それは、川崎汽船が発表した公募増資です。川崎汽船は2012年7月10日に売り出し価格と売り出し株数を発表しましたが、それぞれ125円、26百万株でした。一方で、この週に増加した売り残高の増加分を見ると、およそ24百万株とほぼ合致する値になっているのがわかります。これは何を意味しているのでしょうか?

一般的には1株125円で購入し、価格が上昇していれば売却し、値下がりしてしまっていたらそのまま現物株を保有するというように思われるかもしれませんね。でも、マーケット全体が下落基調で、売り出し価格割れするかもしれない川崎汽船の株を、なぜ大量に購入する投資家が存在するのでしょうか?

個人投資家の場合、「長い付き合いだから」とか、「勧められたので仕方ない」から買うといったことは十分ありますが、大量に売り出しを引き受ける機関投資家の場合、みすみす損をするような購入は、いくら付き合いがあってもできません。

それでも購入している理由は、今回大幅に増加している売り残高が示しているように、空売りをして儲けることができるからです。

過去にもお話ししましたように、信用取引の決済方法は、「【1】マーケットで買い戻す」、「【2】現物株を引き渡して返済に使う(品渡し、または現渡し)」の2種類ですが、【2】を選択することで利益をあげることができるのです。

たとえば、増資を行うと報道された2012年7月2日の時点で運用担当者がすぐに空売りを行ったり、また公募価格が決定した翌営業日から空売りを行ったりというようにすればよいのです。

そうすれば、売り出し価格よりも高い値段で売り、払い込みが終了したあと株が口座に振り分けられたところで【2】を選択し、売り出し価格が決まった翌営業日の寄り付き値129円と払い込み価格の差額である4円の利益が出せるのです。

またこうすることで株価が上昇しないまま売り残高が一気に減少することになり、買い戻しによる将来の上昇を期待して買った投資家は、まさにあてがはずれたことになり、そのまま株価低迷に付き合わされることになるのです。 

一方で、同様に前週比で売り残高が2倍以上に増加している「ベスト電器」や「大阪ガス」はどうでしょう?ベスト電器はヤマダ電機への第3者割当増資が発表されており、こちらも増資に関係する売り残高の増加と考えられそうです。

そこで最後に残った大阪ガスですが、この原稿を書いている間に増資などの発表がありませんでしたし、株価が上昇傾向を続けていますので、この銘柄だけが増資などに関係なく売り残高が純粋に増加している銘柄と考えられるのではないでしょうか。

このまま上昇傾向を崩さず、売り残高も減らないようであれば、買い戻しによる上昇が期待できるかもしれません。

このように増資に関係する銘柄の場合、売り残高が大きく増えても、受け取った株券が返済に使われ、買い戻しの要因にならないことが考えられますので注意してください。
また、株価の下落基調が続くなかでも売り残高が増加するようですと、増資のうわさが流れているなど、何らかの需給関係の変化の兆しかもしれません。そうした動きを発見したら、こちらも買うのではなく動向に注意するようにしたいところです。

コラム執筆:福永 博之

株式会社インベストラスト代表取締役。IFTA国際検定テクニカルアナリスト。ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ 株式・資産形成講座 講師。勧角証券(現みずほインベスターズ証券)、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)、同証券経済研究所チーフストラテジストを経て、現職。現在、投資教育サイト《アイトラスト》の総監修を務める。ラジオNIKKEI、テレビ東京、TOKYO MXテレビ、CS日テレなどの株式関連番組にレギュラー出演。マネー雑誌の連載のほか、執筆多数。最新刊『めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った「株」チャートらくらく航海術』(ダイヤモンド社刊)では、チャート分析の基本中の基本、ローソク足に徹底的にこだわって騰がる株を見つける方法をわかりやすく解説し、好評を博している。

ダイヤモンド社からテクニカル分析の本を出版しました。『FX一目均衡表 ベーシックマスターブック』(2月10日発売)一目均衡表の書き方から分析手法まで、これまでにないくらい詳しく書かれた本です。中には「一目均衡表は分足トレードでも有効か?」とか、一目均衡表を「座標軸で考える」などという、私なりの分析も書いてありますので初心者の方から実際に一目均衡表を活用されている方まで、読みごたえのある本になっています。

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