2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
今週の新聞のマーケット欄で次のような記事を見つけました。3年ぶりの「ゴールデンクロス」実現という以下のような内容です。
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13日の日経平均株価の100日移動平均が200日移動平均を上回る「ゴールデンクロス」が3年ぶりに実現した。チャート分析上、中長期の上昇相場への転機を示すとされる。(中略)92年以降この「ゴールデンクロス」は5回。うち3回は3割前後の上昇相場に結びついた。(日本経済新聞5月14日朝刊18面)
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「ゴールデンクロス」のようないわゆるチャートを使った相場の予測は果たしてどの程度有効なのでしょうか。今回はこれを取り上げてみたいと思います。
● 移動平均とゴールデンクロスとは?
チャート分析で最もポピュラーなのが新聞記事にも使われた移動平均です。移動平均とはある時点から過去の一定期間の終値の平均値を表しています。例えば、今日の13日移動平均といえば、今日の終値と12日前からの終値の13個の終値の平均です。明日の13日移動平均は、明日の終値、今日の終値、11日前からの終値の平均になります。移動平均とは、過去同じ数量の買付けを行った場合の平均の購入コストという見方もできます。
日数の異なる移動平均を使ってゴールデンクロスとかデッドクロスという表現が使われます。短い日数の移動平均が長い方を下から上にクロスするのがゴールデンクロス、その逆がデッドクロスです。ゴールデンクロスなら買い、デッドクロスなら売り、というのが一般的な判断です。
● テクニカル分析
移動平均、ゴールデンクロスといった分析はチャートや罫線を使った「テクニカル分析」という分析方法に分類されます。テクニカル分析とは、過去の価格(例えば株価)といったものから将来を予測するものです。言い換えれば、過去の価格に将来を予測するために必要な情報が含まれているということを前提に分析を行うことになります。そしてテクニカル分析という方法によって、価格に隠された将来の情報を抽出できるということになります。
● 効率的市場仮説
このようなテクニカル分析の有効性を否定するのが、市場は効率的であるという考え方です。ランダムウォーク仮説とも言われるものですが、これは現在の価格がすべての情報を織り込んだものになっており、特別な分析などによって過去の情報だけから将来を予測することはできないという考え方です。しかしこの考え方もまだ「仮説」であり、結論が出るまでには至っていません。
● アノマリー(Anomaly=異常という意味)
市場が効率的であるかどうかについては議論があり、一方でテクニカル分析を正当化するような事実もあります。有名なのが「1月効果(JanuaryEffect)」と言われるもので米国の株式市場において毎年1月に株価が上昇する傾向があるというものです。このように一般に知られたものでなくてもテクニカル分析によって、市場の動きにある規則性が見出せれば市場を予測して利益をあげることができます。
●「だまし」
しかしテクニカル分析にはおかしなところもあります。その一つが「だまし」といわれる説明です。最初に紹介した新聞記事には後半、こう書かれています。
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「ゴールデンクロス」実現後に下落する「だまし」もある。
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これはどういう意味かと言うと、だまし、とは通常の予測と結果が異なり、だまされる、という意味ですが、だましが多い分析とはそもそも分析として役に立たないとも言えます。テクニカル分析で予測を行い、はずれると「だましだった」と使い分けるのは都合の良い説明です。
● テクニカル分析でお金持ちになれるか?
このようにテクニカル分析の有効性に関しては様々な意見があります。アクティブ運用がマーケットを上回る実績をあげられるかどうか、という議論と同様、結論が出ている訳ではありません。実際、投資関連の書籍にはチャート分析を取り上げたものが多数ありますし、マネックスメールの相場概況でもテクニカル分析に基づく内容を記載しています。
しかし、私自身はテクニカル分析で株式や債券の投資判断を行うことには否定的です。その理由は2つあります。1つはいわゆるアノマリーが市場に存在するとしても、テクニカル分析という方法によってそれを見つけ出せるのかに疑問があること。もう一つは、もしテクニカル分析によって見つけ出せる収益機会があるとしても、それを探し出すことにかかる時間と手間(コスト)を考えると投資として割りに合わないのではないかと思うからです。
そしてテクニカル分析に否定的な最大の理由は、テクニカル分析による株式投資の本を書いてお金持ちになった人はいますが、テクニカル分析だけで実際に株式投資をしてお金持ちになった人に残念ながら今まで会ったことがないということです。
(マネックス証券 資産設計部 内藤忍)
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