持ち値の呪縛(じゅばく)

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

持ち値の呪縛(じゅばく)

為替は円高が随分進みました。短期取引で為替益を稼ごうと思っていたのに、マネックスFXの損益が数万円のマイナスになってしまってじっとしている人が周りにいます。短期の取引がなぜ長期の塩漬けになってしまったのか。
●持ち値の呪縛
持ち値とは自分の保有している平均の単価です。例えば、1ドル118円と122円で1万ドルづつ買ったとすれば、持ち値は平均の120円になります。これが108円になると12円の評価損です。評価損になってポジションをダラダラと保有していると自分の持ち値との乖離がとても気になってきます。
さてこのような評価損の状態になるとどうなるでしょうか。1ドル120円という持ち値が目標の値段になってしまいます。為替が動くたびに、「あと●円」と持ち値から現在の損益を計算しなおす。しかしこれは無意味です。

●あなたの持ち値は相場に関係ない
持ち値によって投資判断を左右することには大きな問題があります。

もし何もポジションを持っていなければ現在の相場水準である1ドル108円で買うか、売るか、という判断ができます。しかし120円の買いポジションを持っていると利食いの目標が120円になってしまいます。しかしその目標値は自分が買った平均値というだけで、相場を考える上での意味はありません。
また持ち値を下回って評価損の状態になっているので、さらに損が拡大してもそのままズルズルと放置してしまいがちです。「投資家は、損失を被るときはリスクを取る傾向がある。」というプロスペクト理論通りの行動です。

●正当化、ポジショントーク
持ち値にこだわらないという人でもポジションを持っていると、それに影響されます。ドルを買っている人は途中で円高になる、と考え方が変わっても、買っているドルを売って、さらにドルをショート(売りもち)にすることには抵抗があります。今までの自分の行動を正当化したいからです。買っていたドルを売ると損失が実現するような場合だとさらに売りにくくなってしまいます。
そして自分のポジションを正当化するような情報に反応するようになっていきます。心の中で自分に語りかける「ポジショントーク」がはじまる訳です。
自分の過去の行動に投資判断が縛られてしまうのです。

●円安に戻っても・・・
さらにこんなことにもなる可能性があります。

現在評価損になっていても、いずれ1ドル120円にもし戻った場合の対応です。ようやくそこで損が解消されたと安堵してポジションを閉じてしまうかもしれません。(これを「やれやれ売り」と言います。)

しかし120円という持ち値と相場の動きには関係はありません。もし相場がさらに円安になってしまえば、せっかくの利益機会を逃してしまうことになります。これも持ち値を意識することで正しい判断ができなくなってしまうデメリットです。

●今、評価損を抱えている方へ
ではどうしたらよいでしょうか。短期の取引をしようとしてポジションが塩漬けになっている人は、こう整理しましょう。

1.まず自分が今、まったく取引をしていないと仮定して、どんなポジションを取るかを予想してみる。

2.その結論によって、A.B.C.それぞれの対応をする
A.自分が今取っているポジションと反対の相場を予想している
→すぐに損切り、さらに逆のポジションを取る。
B.自分が今取っているポジションと同じ方向の相場を予想している
→ポジションは保有、現在の水準からの利食い、損切り、を設定する
C.相場の予想がわからなくなってしまった。
→一旦すぐに損切る。

過去のポジションとは切り離して、今どう考えるか、が重要なのです。そしてわからない時にはポジションを閉じる勇気も必要です。

相場は刻一刻動いています。わからない、見るのが嫌、面倒くさい、といった理由で保有しているポジションを放置するのはやめましょう。

今回の話のまとめ---------
塩漬けになってしまったら持ち値と現在の相場を比較することは無意味
ポジションを持っているときは悪い情報に耳を傾けよう
今どう考えるかを元に合理的な投資行動をするようにしよう

ではまた来週・・・。

(マネックス証券 資産設計部 内藤 忍)

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