ミスマッチリスク

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

ミスマッチリスク

10年ほど前、銀行の企画部にいたときはミスマッチリスクの分析が仕事でした。銀行は普通預金や定期預金をお客様から預かって、それを貸し出しや有価証券の運用に使ったりしています。預かった預金と運用先の期間(貸出期間や債券の満期)が一致しないと金利が上昇したときに収益に影響します。これをミスマッチリスクとして全体のリスク管理をしていたわけです。

個人の資産設計の場合にも銀行とは違ったミスマッチリスクが存在します。気が付かない間に取っているそんなミスマッチリスクとはどのようなものでしょうか。

●殖やすお金と使うお金のミスマッチ
個人の資産設計で発生するのは殖やすお金と使うお金のミスマッチです。今保有している資産が経済情勢の変化によって将来使う時に価値が下落してしまう可能性があるとすれば、それはミスマッチリスクとして認識する必要があります。資産設計の目的は実質的な購買力の維持・向上だからです。

元本保証の預貯金だけを保有していても知らない間にこのミスマッチリスクが発生しています。元本保証というのは名目の金額の保証であり実質の価値の保証ではないからです。2つのミスマッチリスクで具体的に説明してみましょう。
●外貨資産を持たないことによるミスマッチリスク
1つ目は為替によるミスマッチです。日本の食糧自給率は40%程度。さらに原油、鉱石など原材料の輸入もあります。日常生活では外車に乗ったりブランド品を買う人もいます。海外旅行を楽しみにしている人もいるでしょう。
つまり使うお金は円貨と外貨、両方なのです。したがって外貨資産を持たない場合、使うお金との間にミスマッチリスクが発生します。

外貨運用を始めよう、という話をすると「円高になったときの為替差損が」と二の足を踏んでいる人がいます。しかし外貨は保有して円高になるのがリスクではなく持たないで円安になることが最大のリスクだということです。

このミスマッチは使うお金と殖やすお金の外貨を同じ比率に調整することで回避できます。完全にマッチさせるのは現実的には無理でしょうが、少なくとも資産の30%程度は外貨で保有しても良いと言えます。

●インフレによるミスマッチリスク
もう一つのミスマッチリスクはインフレによる資産価値の減少というリスクです。例えば元本保証で資産を保有していても物価が上昇すれば結果として購買力が低下してしまうことです。これも元本保証商品だけで運用すると陥る可能性のあるリスクです。

インフレリスクへの対応としては、株式や不動産、金(Gold)など、インフレに強いと言われる資産を一定比率組み入れることが考えられます。しかしこれらの商品を使っても確実な方法とは言えません。不動産には地震リスク、空室リスクなど別のリスクもあります。株も銘柄による価格変動は異なりますし、貴金属も需給など商品市況独特の値動きがありインフレには完全に連動しません。

●インフレ連動債券
そこで考えられるのがインフレに連動する債券を保有するという方法です。2004年5月7日に取り上げましたが、読者の方の反応は今ひとつでした。http://www.monex.co.jp/monex_blog/archives/004871.html

日本でもインフレ連動債は今年から発行が開始され、順調に需要が集まっているようです。簡単な仕組みを説明しておくと、例えば全国消費者物価指数(物価)が3%上昇すると元本が3%増加、逆に3%下がれば元本が3%減るようになっています。インフレになった時にその分元本が増えて実質の手取りが減らないようにできるわけです。(逆にデフレの時は元本が減少します。)
●消費税引上げはCPIを押し上げる
インフレで一番気をつけなければいけないのは消費税の今後です。消費者物価がどうなるかは確実なことは言えませんが、もし消費税引き上げがあれば消費者物価指数を引き上げることになります。日本の5%という消費税率は、先進国の中では最も低い水準であり、現状の財政状況からすれば税によって物価が上昇するというシナリオは考えておくべき展開でしょう。

●個人がインフレリスクに対応する方法
税制の問題から、日本国が発行する物価連動債券は個人が購入することはできません。販売単位から考えても現実的な方法としては、物価連動国債を組み入れた投資信託を購入することが考えられます。

現状ではノーロード(販売手数料無料)での販売はされていないようですが、ノーロードで購入できれば、信託報酬が低めに抑えられているので、投資対象として検討できると思います。マネックスメールの読者の方はインフレ連動債ファンドにご興味ありますか?

●ミスマッチリスクを認識した上で、どこまでリスクを取るかを決める
ミスマッチリスクは完全に無くすべきものではありません。自分の資産設計の考え方によっては敢えてリスクをそのままにする、という選択肢もありうると思います。

ただ元本保証資産さえ保有していれば安心という間違えだけはしないで欲しいというのが、今回のコラムで理解しておいて欲しいポイントです。

今回の話のまとめ---------
●元本保証商品だけを保有していてもミスマッチリスクは発生する
●円安リスクは外貨と一定比率保有することでミスマッチを回避できる
●インフレリスクは株・不動産でも可能だがインフレ連動債券もある

ではまた来週・・・。

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