「経営者・有識者」の予想は信用できるか(2)

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

「経営者・有識者」の予想は信用できるか(2)

前回は日経新聞の年初に掲載される有望銘柄について検証を行いました。http://www.monex.co.jp/monex_blog/archives/005533.html

1年前(2004年1月3日)の新聞記事を1年間保存している人は少ないでしょうしそれを検証する人はもっと少ないでしょうから誰も気にしないのかもしれませんが、このような予想を鵜呑みにして投資をするとどのような結果になるかはおわかりいただけたのではないかと思います。

●為替の予想
有望銘柄に続いて今度は為替です。1年前にはどんな予想がされていたのでしょうか。経営者とエコノミスト合わせて20人の2004年末のドル円の予想レートは平均で108.35円となっていました。予想は100円から120円まで20円のレンジでしたがほとんどの予想は105-110円に集中しており「無難な」予想でした。
エコノミストであれ、経営者であれ相場を予想すること自体とても難しいものですが、どんなプロセスで作られたのでしょうか。有望銘柄でトヨタが3年連続1位になったり、為替レートの予想が一定のレンジに集中したり。ナゼ同じような予想内容になるのでしょうか。

●大企業のトップの予想
大企業の社長の予想というのは本人が自分で考えているのでしょうか。恐らく総合企画部、社長室といったスタッフ部門が数字を作って社長に判断してもらうというプロセスでしょう(私もそのようなセクションで働いていたことがあります)。

数字を作る人たちの心理としては他の予想と極端に離れた数字を出してしまい批判されるリスクは避けたいところです。失敗したくない心理が働く結果、予想の内容は似たり寄ったりになる可能性があります。つまり横を見ながらの作業になります。本当の予想とは随分違った結果になりがちです。

●バイアス
また経営者であれば景気に対しては楽観的な気持ちを持ちたいものです。新春から悲観的な話では縁起でも無いと言われかねません。したがってあまりに悲観的な数字は避けられる傾向にあるでしょう。

逆にエコノミストなどでは人と違うことを言わないと商売にならないので数字をラジカルに出す人もいます。極端な悲観論を続ける有名なエコノミストやいつも楽天的な予想をすることで存在価値を見出している人なども存在します。
このような予想に対するもともとのスタンスによっても予想の内容が影響を受けてしまう場合があるのです。

●整合性
また予想を作る時に悩ましいのが整合性です。大企業であれば為替、債券、株価、さらには経済成長率などのマクロ指標など様々な予想を行います。それらの数字には整合性が無いとまたクオリティに対する批判を受ける可能性があります。経済成長率の予想が高いのに株価は低迷するというわけにはいかないでしょうし、為替が円高になるのであれば景気減速といった常識的な判断が期待されます。

予想数値間の整合性を取るために、そもそもの予想数値が「調整」されてしまい本来の数字と異なる予想値になってしまうとどの数字が正しいのかわからなくなってしまいます。

●予想数値の正しい使い方
このように考えると新聞紙上で行われるようなアンケートの結果には投資を決定する情報にはなりえないことがわかります。

有望銘柄に投資をするくらいなら自分でPERやPBRを調べて投資をする方がリターンが期待できそうですし、為替取引も自分で判断した方が良さそうです。
リターンは人と同じことをするのではなく人が考えることと違うことをしてそれが正しい時、大きなものになります。人の予想を有名人だから、大企業の経営者だから、と信じこむのではなくどうしてそのような数字を出したのか、という理由やそれができるまでのプロセスを想像することによって、使い方がわかってきます。

新聞のこのような予想は投資判断には直接役には立たないでしょうが世の中の専門家が世の中も予想をどう予想しているかを知るのには役立つでしょう。
もっとわかりやすく言うと、自分が美人と思う人ではなく世の中が美人だと思う人を選んでしまう「美人投票の問題」と同じことが起こっている可能性があるのです。

今回の話のまとめ---------
●経営者の年初予想は横並び、バイアス、整合性といった問題がある
●その結果「美人投票の問題」と同じことが起こっている
●アンケートの結果は投資決定の情報に使ってはいけない

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