2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
3月23日に2005年1月1日現在の公示地価が発表されました。それによりますと千代田区など都心5区の商業地が14年ぶりに上昇。大阪圏、名古屋圏で上昇地点が増えるなど三大都市圏で上昇局面入りが鮮明化してきた、と報道されています(新聞にくわしい地価の動きが掲載されています)。
果たしてそうなのでしょうか。
そんな中、「土地の値段はこう決まる」(朝日新聞社)の著者井上明義さんにお会いする機会がありました。私のblogで著書を紹介させていただいたのがご縁で初めてお会いしましたが、不動産鑑定の専門家としての見方は新聞報道とは少し違っているようです。
http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=monexinc-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4022598700&fc1=000000&=1&lc1=0000ff&bc1=000000<1=_blank&IS2=1&f=ifr&bg1=ffffff
●お役所の見解
新聞によれば、三大都市圏の上昇要因について国土交通省は下記の4つをあげています。
1.景気の回復傾向
日本の景況感が好転し、企業の設備投資や個人消費の改善から不動産に対する需要が高まってきた。
2.取引の活発化
企業の遊休地や社宅などの処分による資産圧縮という供給の増加と不動産需要高まりによって取引が活性化したことにより価格が上昇した。
3.マンションの都心回帰やビル需要の増加
都心の地価の下落に伴い郊外から都心への住み替え需要が出てきたこと、また分散しているオフィスを都心に集約させる企業などが増え、都心不動産への需要が高まってきた。
4.不動産証券化市場などの活性化
REITのような不動産証券化の動きが活発化しファンドに組み入れる物件需要の高まりから物件購入ニーズが高まった。
●井上さんの見解
結論から言うと、5年で地価はさらに半額まで値下がりすると考えているようです。
その根拠として最近の地価上昇の理由を考える必要があると説いています。例えば東京地区で地価が値上がりしている地域は例えば丸の内、六本木、汐留、品川、表参道、銀座といった所です。これらの地域の値上がりの理由は大きく2つに分けられます。都市基盤整備に基づいて価値が増加したもの、需給バランスから値上がりしたもの、です。
銀座、表参道といった地域はブランド企業の自社商業ビルを建てるという実需から上昇しています。NY、ロンドン、パリといった海外主要都市との国際比較から購入判断しているのです。これは地価が上がったと言えるでしょう。
一方丸の内や汐留などの地域は再開発や都市基盤整備によって価格が上昇しています。古いビルがリニューアルされたり、地下鉄の新しい駅が出来たりという理由で地価が上がったとしてもそれは需給ではなく、土地という商品の品質が上昇したことによる価格の上昇であり、継続的な上昇にはつながらないのではないか、との見方です。
今後不動産ファンドの物件への過剰な需要、マンションの大量供給の結果による需給バランスの悪化、大型ビルへのテナントシフトによる中小ビルの空室率の上昇など供給過剰による地価の下落圧力は続くと見ています。
井上さんの考え方の根本は「不動産価格の根本は需要と供給で決まる」という当たり前のことです。マンションの大量供給、大型ビルの大量建設という供給の増加と人口の減少、団塊の世代の大量退職によるオフィス需要の減少といった需要の減少というマクロの動きから判断すれば、地価が特定の地域で反発することはあっても下落のトレンドには変化がない、との結論です。
現在の需要のうちマンションデベロッパーによる土地取得競争、不動産ファンドによるオフィスビル・商業ビルの物件取得競争といった要因は永遠に続くとは考えにくいと思います。これらの需要が減少すれば地価に対してマイナスの方向に働くリスクがあります。
●個人投資家への教訓
どちらの考え方が正しいかは未来にならないとわかりませんが、不動産の価格の動きによっては例えばREIT(不動産投資信託)のような商品の価格に影響があるので注意が必要ではないかと思います。
REITは年間3%台の利回りが期待できるミドルリスク・ミドルリターンの商品として人気がありますが、不動産価格が下がれば価格への影響があるからです。
●ポジショントーク
株式にしろ不動産にしろ、相場見通しについて専門家の意見を聞くときには「ポジション・トーク」に気をつける必要があります。「ポジション・トーク」とは自分に都合が良い方向に話をすることです。
例えば政治家であれば景気回復させたいでしょうから株や不動産の価格が下がるとは言いにくいでしょうし、不動産会社の経営者でマンションの値段が下がる、といえる勇気のある方は少ないようです。
つまりその人の立場によってコメントにバイアスがかかっていることを理解する必要があります。
ちなみに私は住まいは賃貸、REITは複数銘柄を保有しているという状態です。ポジションとしてはやや下がった方がうれしいという状況でしょうか。
●最後は自分で勉強
不動産に関しては個別性の強い商品であり、一般化は難しいのかもしれません。考え方をもっと学びたい方は個人投資家が読んで役に立つと思われる書籍をご紹介しますので読んでみてください。
<参考図書>
下がり続ける時代の不動産の鉄則(誠実な内容の良書です)
幸田昌則
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532310687/ref=pd_ecc_rvi_1/250-6233364-3018629
地価「最終」暴落 光文社ペーパーバックス(ややセンセーショナルな内容)立木信
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/detail/-/books/4334933440/reviews/ref=cm_rev_more/250-6233364-3018629#3
今回の話のまとめ---------
●公示地価を見ると都心の不動産価格は下落に歯止めがかかった
●不動産に限らず商品の値段は最終的に需給で決まる
●ポジショントークに惑わされないよう自分で本質を見極めよう
マネックスからのご留意事項
「資産設計への道」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。