10年で1億円作る方法

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

10年で1億円作る方法

最近また資産を殖やそうという「投資本」が増えているようです。マネー誌などでも特集をしていますが、何か違和感を感じてしまうのは私だけでしょうか。
●10年で1億円作る方法
例えばこんな本がありました。

「パソコンが勝手に儲けてくれて5年で3000万円になる」

そんなうまい話があるのかと思いますがこれは毎月元手の1割の利益で実現するプランのようです。毎月10%のリターンが実現できれば1年で倍以上に資産が殖えていきます。確かに実現すればこんな素晴らしい話はありません。また別の雑誌の10年で1億円作る方法というのはこう説明されています。

「まず元手が1000万円必要です。それを毎年26%の利益を積み重ねるだけで実現しました。半年だと13%、1ヶ月に2%ちょっとと聞くと「自分でもできるかも」と思えてきます」

元手の1000万円を26%で運用できる人は世の中にどの位存在するのでしょうか。
●資産運用の現実
このようなタイトルに違和感を感じる理由はリターンの話ばかりでリスクについて何も語っていないことです。良いところと悪いところをきちんと説明するのが読者への誠意ある対応ではないでしょうか。

例えば26%の上昇を狙っても確実に成功する保証はもちろんありません。ではもしうまくいかなかったらどの位のダメージを受けるのでしょうか。1000万円といえばかなりの元本金額です。もし26%ではなくマイナスの26%になれば300万円近くが無くなってしまうわけです。このようなリスクがあることを読者に説明する必要はないのでしょうか。

市場全体の動きにもよりますが、2桁以上のような高いリターンを実現するということは、毎年インデックス(市場の平均)に勝ち続けるということです。リスクをコントロールしながらそんなことができる確信があるのなら自分の資金だけではなく人の資金も運用してあげるファンドマネージャーになることを真剣に検討すべきでしょう。

継続的な高いリターンは特別な才能かラッキーがないと実現できません。それはほんの一握りの人たちだけにしかできないことなのです。つまり成功者の裏にはその何倍もの資産を減らしてしまう失敗者がいるということです。

●リスクを考える
もちろんリスクを取らなければリターンはありません。リスクを取るなというのではなく、重要なのはリターンから考えるだけではなくリスクも同時に考えておくことなのです。コインの表だけではなく裏も見ておくということです。
リターンだけの楽観的な数字合わせでは実現性の高い長期の運用プランは作ることができません。

●基本は長期、アセットアロケーション、コストの3つ
過去のデータが教えてくれることは
1.銘柄集中の短期運用より資産を分散させた長期運用が安全
2.リスクを取り過ぎると失敗して市場から退場して長期運用できない可能性が高まる
3.コストを下げることがリターンを上昇させる最も確実な方法
ということです。

そのような長期の分散投資の場合、現実的に実現可能なリターンはどの位になるでしょうか。イボットソン・アソシエイツ社の小松原さんによれば1970年から2004年までの超長期の市場平均リターンを使って計算すると、アセット・アロケーション(日本株式30%、外国株式20%、日本債券10%、外国債券20%、短期金融資産20%)を行った場合の平均年リターンは6.4%になるとしています。

その中から取引コストや税金などを差し引くと、5%ないしは6%くらいが常識的な長期の平均運用レートということができると思います。年26%や毎月10%という想定リターンがかなり無謀なものかということがわかると思います。
●自分でやってみること
拙書「資産設計塾」の158ページに運用レート別に資産がどのように殖えるか計算できるシートがあります。それを使うと例えば6%で運用すると10年後に約1.8倍に殖える計算になります(26%で計算した結果は掲載されていません)。
自分の金融資産で実際にどの程度殖えるのか計算してみるとリアルな数字を実感できます。年間平均6%程度の運用であっても最悪の場合は1年で金融資産の20%近くが失われる計算です。

10年で1億円作る方法・・・それは現在5500万円を保有している人なら年間平均6%で運用できれば達成できます。夢の無い話かもしれませんが、長期の資産設計に必要なのは不可能な予定を立てて失敗することではなく、最悪の事態を想定して対策を考えておくことなのです。

今回の話のまとめ---------
●年率2桁のリターンを長期に継続するというのは非現実的
●リターンだけではなくリスクを考える
●現実的な想定リターンで自分のケースを実際に計算してみよう

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