「専門家」の予想は役に立つのか 2006年

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

「専門家」の予想は役に立つのか 2006年

年初の日経新聞では経営者・有識者にアンケートで1年の日本経済を予想してもらう恒例企画があります。昨年、このコラムで1年前の相場予想について検証を行ってみました。その結果はあまり芳しいものではありませんでした。
 今年もまたDKAの池田さんにご協力いただき1年前の2005年1月の新聞を引っ張り出してデータを集めてみました。

●タイミングは当たった?
 まずは日本の株式市場全体の動きについてはどうだったのでしょうか。証券会社からメーカーまで日本を代表する企業のトップが予想する昨年の日本株式は年初に日経平均で1万円前後の安値をつけ、年末に1万3千円前後の高値に向かうというのが昨年はじめの総合的な意見でした。

 実際の相場は日経平均で見ると2005年4月の10,770.58が底になり、年後半は上昇。12月末には16,111.43で引けました。前半安く後半高い、という値動きは予想通りというところですが、高値の予想が一番高い人でも15,000という人が1名いただけ。大手証券会社の社長さんも12,500という予想でしたから参考にして売却していたらその後の上昇を取り損ねたことになります。

●永遠の有望銘柄?トヨタ
 次に個別の有望銘柄を見てみましょう。すると不思議なことに気がつきます。2002年から4年連続で有望銘柄のトップがトヨタ自動車になっていることです。もちろんトヨタ自動車が超優良企業であることに疑問を持つ人はいないでしょうが、優良銘柄ではなく有望銘柄としてずっと1位になっているというのは少し違和感があります。

 では2005年の年初に有望企業ランキングトップ10に入っていた企業の昨年1年の株価上昇率はどうだったのでしょうか。2004年末と2005年末の株価を比較して上昇率を計算したのが下記になります。

トヨタ(7203) 4,170円→6,120円(46.7%)
武田薬品工業(4502)5,160円→6,380円(23.6%)
キヤノン(7751)5,530円→6,900円(24.7%)
シャープ(6753)1,673円→1,794円(7.2%)
三菱商事(8058)1,324円→2,610円(97.1%)
信越化学工業(4063)4,200円→6,270円(49.2%)
JFEホールディングス(5411)2,925円→3,960円(35.3%)
新日本製鉄(5401)251円→420円(67.3%)
松下電器産業(6752)1,626円→2,275円(39.9%)
デンソー(6902)2,745円→4,070円(48.2%)

 ちなみに同期間のTOPIXの騰落率は1149.63から1649.76に43.5%の上昇ですから2005年も「有望銘柄」に投資していても市場平均を上回るリターンが得られたとは限らなかったということになります。

●有望企業と値上がりする企業は別
 有望銘柄としてあげられているのはいわゆる国際優良銘柄や電器、鉄などの大手メーカーが中心です。それには心理的な理由があると考えられます。
 例えばとても有望だと思っていても知名度の低い、時価総額の小さな会社だった場合、紙上に掲載されると株価に影響してしまう可能性もあります。また逆にそのような会社は経営の安定性を考えればリスクの高い投資先であり、万が一のことがあった場合に推薦したことによってダメージを受けるリスクがあります。

 誰もが知っている優良企業なら大はずれすることもなく、結果としていわゆる無難な選択になってしまうのです。だとすればこのような有望銘柄の予想は投資判断の混乱材料になるだけで見ない方が良いということになります。
●「専門家」の予想から学ぶこと
 しかしこのような予想から学べることもあります。それは自分でやる銘柄選択においても同じような心理的なバイアスがかかっていないか、という反省です。

 投資初心者が株式投資をはじめる際、好きな会社や応援したい会社を買う傾向があります。それ自体は良いことなのですが、問題はいくらで買うかです。良い会社でも価値以上に価格が割高になっていると上昇の可能性より下落するリスクの方が高くなってしまいます。大切なのはその企業の価値に比べて価格が割安かどうかという視点です。本当に価値のあるものが安い値段で売られているなら将来の値上がりで平均以上を期待できる可能性が高まります。

 株式投資に必要な視点は良い会社を探すことではなく価格が本来の価値よりも安くなっているものを見つけることです。心理的なバイアスがかからないようにするためには感情的な投資判断をするのではなく、PER、PBRといった数値化できる指標を使い、客観的な判断材料から意思決定をしていく必要があると思います。

 「知っている会社に投資をしてみよう」といった口当たりの良い投資手法が良い結果をもたらすとは限らないのです。

今回の話のまとめ---------
●人の予想は鵜呑みにしてはいけない
●経営者・有識者が選んだ有望銘柄には心理的バイアスがかかる理由がある●有望銘柄ではなく割安銘柄に投資をすることが重要

ではまた来週・・・。

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