2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)
最近面白い本を2冊読みました。橘玲さんの「臆病者のための株入門」と山崎元さんの「「投資バカ」につける薬」です。
橘さんも山崎さんもお仕事やプライベートでご一緒したことがありますが、頭脳明晰、論理明快で魅力的な方、という共通点があります。この2冊の本も書き手のお人柄が行間ににじむ刺激的な作品です。
●橘さんの意見
「臆病者のための株入門」は淡々と記述がされていますが、資産運用の世界を手際よく調理する切れ味鋭いナイフのような味わいがあります。株式投資はギャンブルであると考えた方が自然であり、そんな株式投資ゲームには絶対儲かる方法はない、が橘さんの主張です。
ただし、株式市場にはわずかな歪みがあってそれを収益化している人たちが少数いるということ、そして資本主義は自己増殖システムなので、長期的に市場の拡大によって株価は上昇するとも書いています。(ただし問題なのはそれがいつかはわからない、とも付け加えていますが・・)
そんな橘さんが提案する投資方法は大きく3つあります。
1つはトレーディングをする(少数の例外を除きほとんどは失敗する)。2つ目はアメリカの有名な長期投資家ウォーレン・バフェットのマネをして長期でバリュー投資をする(これも銘柄選択ができるかが問題になります)。そして本命の3つ目はグローバルにインデックス運用をする、です。自分の資産全体を世界全体の縮小版にするようなグローバルインデックス運用ができれば市場の平均値並に長期的な株価上昇の恩恵に与れるという理屈です(株式だけで考えると海外株式に85%の配分を行うことになってしまいます・・・)。
●山崎さんの意見
山崎さんの意見も橘さんに劣らずスパイシー(激辛)です。生命保険、毎月分配型投信はおろかすべての投資信託、外貨預金、テクニカル分析、プライベートバンク、ヘッジファンド、デリバティブ・・・ほとんどすべての金融商品と投資手法を不必要、とバッサリ切り捨てています。
そんな中で、山崎さんがすすめる数少ない金融商品は個人向け国債と現物株式です。個人向け国債と銘柄分散された株式投資の組み合わせが現状考えられる最善の方法だとしています。
個人向け国債の10年・変動型であれば金利リスクが半年しかなく、1年経てば解約できる流動性もあり、(山崎さんの相場観ですが)今後の金利上昇を考えれば相対的に優れた商品と結論づけています。
また株式投資はコストが低く異業種の3銘柄程度に投資すれば、リスク分散が可能だからというのが選択の理由です。
個人差はあると前置きしていますが、例えば3,000万円の金融資産を持っている人なら、1,000万円を銀行の普通預金に入れ、1,000万円を個人向け国債(10年・変動型)に、残りの1,000万円で自分で銘柄を選び、分散投資をすることを提案しています。
●「資産設計塾」の意見
拙書「資産設計塾」で提案しているのは手元に生活費の3ヶ月分くらいを置いておき残りの資金で標準的なアセットアロケーションによる分散投資をする方法です。資産を6つのアセットクラス(リスクによって分類した資産のグループ)に分け、それぞれの比率に沿った運用を継続する方法です。
<参考>マネックスメールのバックナンバー
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/006568.html
資産設計でも外貨預金や生命保険、信用取引、毎月分配型投信などは必要ありませんが、投資信託は活用すべき商品としています。そして株式の個別銘柄選択は「最後にやる投資」ということで、銘柄選択スキルの無い個人投資家には向いていないとしています。
3人の考え方の根本には共通点がいくつかあります。それは
1.コストを下げることを常に考えていること
2.人の意見に左右されず、自分で勉強して判断すること
3.投資には確実な方法は無い
ということです。
しかし一方で大きな違いも存在します。一体誰の言うことが正しいのでしょうか?あるいは3つともが間違っているのでしょうか?残念ながら資産運用には数学のテストのような正解はありません。
理論的に正しい方法であっても実際に運用してみると成功しないということは資産運用の世界ではよくあることです。ノーベル経済学賞を受賞した経済学者が金融理論に基づいて運用を行ったドリームチームも運用に失敗し、理論に基づく運用は夢に消えました。
●自分が良いと思うなら、自分で投資する
山崎さんは投資のアドバイスを受けたらこう問いかけようと提案しています。「だったら、なぜ自分で投資しないのですか?」
本当に良いと思うのなら言っている本人も自分で投資しているはずだからです。
「資産設計塾 実践編」では私自身が実践する投資手法を紹介しています(172ページ)が、山崎さん、橘さんご自身の資産運用はどうやっているのでしょうか。今度お会いした時に是非聞いてみたいと思っています。
今回の話のまとめ---------
●資産運用には様々な意見があって残念ながら正解が無い
●理論どおりに実践できないのが資産運用の現実
●自分でやらないのにすすめるものには要注意
ではまた来週・・・
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