金融業界のマジシャンたち

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

金融業界のマジシャンたち

マジシャンとは一般人にはわからないようなトリックを使って不思議な現象を見せてくれる人たちです。例えば1000円札を目の前で1万円札に変えてしまったりするわけですが、目の錯覚に過ぎません。本当に1万円に殖えたわけではないのです。

●金融業界の引田天功
 金融業界にもマジシャンはたくさんいます。数年前にEB債という商品が大ヒットしました。金融業界の引田天功のような存在です。これは例えば有名な上場銘柄株を対象に、株価が事前の決定価格を上回った場合には元本と高い利息が得られ、株価が決定価格を下回ると、対象となった株で現物償還される商品です。つまり株価が下がると株になってしまい株価が上がると金利しか得られない商品なのですが、見た目の高金利に目を奪われ魅力的な商品に見えてしまう錯覚商品でした。

 大人気だったEB債ですが、実はコスト高で個人投資家にメリットの薄い商品であることが明らかになるにつれマーケットから消えていきました(ちなみに引田天功さんは2代目になりましたが現役でご活躍です)。

●新しい金融業界のマジシャン(1)
 しかし最近も新しいマジシャンたちが次々と金融業界に現れています。
 例えば「ステップアップ型社債」というのがあります。これは円建で5年の債券なのですが、利率が年々上がっていく商品です。例えば1年目が1.3%、2年目から0.15%ずつ金利が上がり最後の5年目には年利1.9%になります。現状の国内金利から見ると魅力的に見えますが、マジックは早期償還条項付というところにあります。これは売り手の都合で早期償還されてしまうという条件付きの債券なのです。

 世の中の金利が下がるとこの商品の価値は上がりますが、その時には償還されてしまう可能性が高まります。逆に市場金利が予想以上に急上昇すると償還されず、当初決められた金利が支払われます。

 ちなみに現在募集中の5年・固定の国債の金利は1.30%です。これはステップアップすることはありませんが、途中でいきなり償還されることもありません。http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G3220/saiken/kojin.htm

●新しい金融業界のマジシャン(2)
 逆に市場金利が上昇すると期間が延長になってしまう商品もあります。「期限延長特約付き預金」と言われるものです。

 例えば5年の円定期として当初5年間、年1.5%(税引後年1.2%)の金利を受け取れます。しかし5年後に銀行側の判断で期間が10年に延長される場合があるのです(その場合、6年目以降の金利は年1.6%にアップするようになっています)。

 そしてこの商品は満期までは原則として中途解約できません。万一解約しようとする場合は元本割れとなる可能性があるのです。

 日本の金利が上昇してしまうと銀行は期限延長をしてきます。そうなると定期預金のままで資金が10年間拘束されてしまうのです。

●「デリバティブ=悪」ではない
 どちらもデリバティブ(金融派生商品)を使った仕組み商品と呼ばれるものです。このようなデリバティブを使った商品をすべて否定するものではありません。デリバティブの技術によってそれぞれのニーズに合った商品開発が可能になる面もあるのです。最初の例で言えば償還されるリスクを取っても少しでも高いリターンが欲しいというニーズには対応しているわけです。

 ただし問題はそのリスクの対価であるプレミアムが上乗せ金利に充分反映されているかどうかです。プレミアムは多くの場合オプションの売りを行うことによって得られます。ところが個人投資家がこのような商品を買う場合にオプションの価値までを計算することは現実には不可能です。ブラックボックスの中で価格決定されると売り手の金融機関に有利になっている(つまりかなり抜かれてしまう)可能性が出てきます。

 宣伝を派手にやっているということはそれだけ儲かっているから、と推測することも出来ます。とすれば販売している金融機関の収益源になっているオイシイ商品(個人投資家からは敬遠すべき商品)かもしれません。

●コストの種明かしをしない金融機関のマジシャンたち
 テレビにマジシャンが出演する番組ではトリックを見せた後に種明かしをすることがあります。マジックとは後から聞いてみると何だそんなことか、と思うような錯覚の利用であることがわかります。

 残念ながら金融機関のマジシャンたちはコストについて自ら種明かしをすることは無いようです。種明かしをしないなら個人投資家としての対応は2つしかありません。
個人投資家自らが種明かししてその商品のコスト構造を解明する、
あるいは
トリックがわからないならマジシャンには近づかない、のいずれかです。
今回の話のまとめ---------
●錯覚によって有利に見える金融商品はマジックと同じ
●金融商品はコスト次第であり「デリバティブ=悪」と決め付けるのは早計●マジックの種明かしができないならその商品には近づかない方が良い

ではまた来週・・・。

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