デイトレーダーの大学教授

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

デイトレーダーの大学教授

日本にも投資の世界で自ら行動する新しいタイプの大学教授が出現したことに拍手を送りたくなりました。個人投資家として行動しながら大学でファイナンスを教える小幡氏です。著作「ネット株の心理学」には個人投資家としての経験を明晰な頭脳で整理した切れのある理論が展開されています。

「ネット株の心理学」(小幡績著)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4839920796/250-6339108-5833859?v=glance&n

 多くの投資本は投資を実際にやっていない人が理論的に書いているか、投資経験のある人が自分の体験談(時には単なる自慢話)を書いているだけのものがほとんどです。残念ながらどちらも実際に自分が投資をする時には役に立ちません。

 小幡氏の書いている内容は実際に投資家として相場に関わり、それを研究者としての視点から分析している点で多くの情報を含む貴重なものです。しかしその内容は私が日頃考えていることと正反対の内容。様々な疑問が浮かんできます。

●長期投資はリスクが高い?
 デイトレードなら株式を保有している時間が短く、市場が閉まっている夜間や週末にポジションを持ち越さない。だからデイトレードはリスクが低く、長期で投資するとリスクが高いと言います。

 しかしリスクが低いと言っても、デイトレードではゼロサムゲーム(参加者全員のリターンの合計はゼロ)です。どこで買ってどこで売るかを研究し、他の市場参加者を出し抜く方法を見つけ出さないとリスクは低くてもリターンにはつながりません。

●業績の良い会社は儲からない?
 次にトヨタ自動車の例を出しながら、業績が良いという事実があってもそれが市場参加者に知られなければ株価は上昇しないとしています。確かに業績とは関係なく上昇下落をする銘柄はたくさんあります。業績と株価の連動にはタイムラグがあるからだと思います。

 業績が良いという事実ではなく、業績が良いということを市場参加者の多くが認知することが株価の上昇につながるのは事実です。一方で実際に企業分析からリターンを上げている投資家も存在します。業績と株価の関係はもう少し研究する必要がありそうです。

●株式投資はマーケティング?
 小幡氏は株式投資はマーケティングである、と結論つけています。つまり保有している株を誰により高い価格で売却するかを考えることがリターンを実現するために大切なことなのだと説いているのです。そして将来誰に売れば高く売れるかを考えて、そこから買う銘柄を考えていくアプローチを提案しています。

 確かにそのようなシナリオに基づく投資によってリターンを実現できる場合もあるかもしれません。しかし実際にシナリオ通りに他の投資家を出し抜くことは簡単に出来るとは思えないのです。

●株式市場はセロサムゲーム?
 私自身はデイトレードをしたことがありませんし、社内規制上できない立場にもあります(会社のルールで反対売買は1ヵ月後にならないとできないのです)。
ですから小幡氏の書いているような手法で取引した経験はありません。一方でデイトレードでコンスタントに利益を積上げている人がいるのも事実です。
 小幡氏は株式市場はゼロサムゲーム(参加者の利益の和はゼロ)という想定で話をしています。確かに短期のトレーディングではそうですが、資産設計で提案しているような長期分散投資は市場平均が中長期的に右肩上がりであることを前提にしています。市場平均からリターンを狙うβ(ベータ)戦略です。
「資産設計塾 実践編」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4426774047/250-3090158-5867419?v=glance&n

 人口減少、成長率の低下といった経済のパイの飽和から、日本の株価の上昇に悲観的な見方もあります。しかし、今後も新技術の登場、新しい価値の出現によって経済のフロンティアは広がり株価に反映すると見ています。逆に言えばこのような中長期の株価上昇が期待できない市場では長期投資は行うべきではないのです。

●時間は無限?
 そしてもう一つ考えなければいけないのは時間のコストです。デイトレードのように立会い時間中にネット証券のスクリーンを見ながら取引を続ける方法は、仕事をしている社会人には現実的には不可能です。

 一方年に4回のモニタリングと年に1回のリバランスで行う「資産設計」なら年間10時間程度で続けることができ、日々の値動きに一喜一憂する必要はなくなります。人生の時間が有限だとすれば投資にはなるべく時間をかけない方が良いと思うのです。

 小幡氏の本には、ご自身の投資実績については残念ながら記載がありません。まだお会いしたことはありませんが、行動心理学を活用した投資のリターンはどうなるのか?機会があれば是非聞かせていただこうと思っています。

今回の話のまとめ---------
●自分で実際に投資経験のある専門家の話は説得力がある
●行動心理学的なアプローチは投資の世界では重要である
●人の半歩先を歩けばリターンを実現できる

ではまた来週・・・。

マネックスからのご留意事項

「資産設計への道」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧