長生きしないリスク、長生きするリスク

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

長生きしないリスク、長生きするリスク

 もう20年前の新入社員の頃、オフィスに出入りしていた生命保険のセールスウーマンの方に薦められるまま生命保険に入りました。その後何回か契約変更はありましたが、今までに支払った保険料は数百万円になっていると思います。しかし最近契約内容を見直してみたら、どうも自分には必要の無い保険に毎月万単位のお金を支払っていることに気がつきました。

 例えば私のように現状独身という立場では、死亡したら保険料が下りる死亡保険は必要ありません。収入が途絶えても直接困る人はいないからです。つまり私の場合長生きしないリスクに対して保険は現状では必要ない、ということになります(結婚したら変わります)。

 一方で長生きするリスクは立場にかかわりなくこれから考えなければいけないリスクです。男性の平均寿命は約80年ですが、全員が80歳で死んでしまうわけではありません。もし自分が100歳まで生きてしまったら?おめでたい話ではありますが、80歳以降20年間の生活をどうやって成り立たせるのかを考えておかなければいけなくなります。

■ 保険は入りすぎ?年金は入らなすぎ?
 ライフステージや環境などで個人差はありますが、一般的に言えることは20代30代で家族がいる人は長生きできないリスクに備えて保険が必要ですが、それは年齢と共に必要金額が下がってきます。そして逆に必要になってくるのが長生きするリスクへの対応です。これは年金の出番です。

 つまり若い頃のリスクとは年齢と共に段々変わっていくのです。それに対する対応をしっかりしている人は少ないように思います

 保険は亡くなったときのためにあり、年金は生きているときのためにあるという意味で2つは別のものです。例えば病気がちで長生きしそうにない、と自分で思っている人は保険には入るでしょうが、年金には入らないでしょう。逆に健康に自信のある人は逆に年金には入るでしょうが、保険には入らないかもしれません。

 生命保険会社の取り扱っている商品には保険と年金があります。単純に言えば長生きできないリスクを保障するのが保険、長生きするリスクを保障するのが年金となります。しかし2つの商品が組み合わせて販売されているため混同してしまっている人が多く、結果として日本人の保険との付き合い方を歪めているように思います。

 保険と年金のバランスをどう取るかは人によって変わってくると思いますが、全体で見るとどうも保険には入りすぎて年金には入らなすぎ、という人が(私を含めて)多いように思います。それは今までは年金は国や企業が面倒を見てくれるという安心感があったというのが理由でしょう。しかしそんな認識を改めないといけない時期に来ていると思います。

■ 長生きへの備え 
 セカンドライフの資産設計を考える場合、定年までの資産運用によって資産を積み上げ、定年後はそれを取り崩し、公的年金などと共に生活費に充てるのが一般的な考え方です。以前のこのコラムでまずはいくら必要なのかをざっくり計算してみる方法を提案しました。
 
老後は4000万円で安心?その計算根拠
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/007393.html

 しかしこの計算方法では予定していた定年後30年よりも長生きしてしまった場合、お金がなくなってしまうという問題があります。このような不安が高齢者の過剰貯蓄をもたらす原因になっているのではないでしょうか。

 その解決方法の1つとして事前に資金を払い込んでおいて、一定の年齢になったら毎月決まった額を亡くなるまでずっともらえる「終身年金」を組んでおけば長生きリスクに対応することができます。

 例えば、40歳の男性が80歳から死ぬまで毎月10万円受け取る終身年金に加入しようとすると現時点での支払い金額は約750万円だそうです。4月から数字は改定されるので目安にしかなりませんが、これで80歳以降は10万円の収入を生涯にわたり追加で得ることができるのです。

■ 年金商品の活用を
 残念ながらこのような終身年金のような商品は日本の生命保険会社ではあまり宣伝されていません。病気やケガの保障をする保険は派手に宣伝されているのに何だか不思議です(保険会社の方、理由を教えてください)。

 長生きするリスクに対応した年金型の商品がきめ細かく開発されれば、お金の不安から開放される可能性が出てきます。そもそも長生きするのが不安、というのは考えてみれば不思議な感覚です。

 過剰な不安から過剰な貯蓄をして人生を豊かにできないのは勿体無いと思います。長生きする不安を取り除く具体的な方法を実行し、人生をエンジョイできる方法を私自身も真剣に追求していこうと思っています。

今回の話のまとめ---------
● 保険と年金の役割の違いを確認しておこう
● 年齢とともに保険から年金へのシフトを考えよう
● お金の不安が解消されれば長生きはリスクではなく楽しみになる

ではまた来週・・・。

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