ファンド選びの難しさ(2)

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

ファンド選びの難しさ(2)

 先週のこのコラムではアクティブファンドを選ぶ難しさについて、でしたが、読者の方からファンド選びにおける分配金の影響について鋭いご質問をいただきました(ありがとうございます)。実は分配金も投資の成果に大きな影響があるのです。

【復習】中国株ファンドの選択基準 先週のコラムはこちら
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/007801.html

 分配金とは株式の配当と同じように、投資信託を保有している人にファンドから定期的に支払われる現金のことです。

■騰落率で比較すると3年まではニュー・チャイナ・ファンドが有利
 運用レポートに掲載されている騰落率データで同じ投資対象のファンドの実績を比較することができます。先週取り上げた中国株に投資する2つのファンドの騰落率は次のようになっていました。

<分配金再投資で計算した騰落率>
三井住友・ニュー・チャイナ・ファンド
 騰落率1年50.9% 3年106.2%、5年190.5%
HSBCチャイナオープン
 騰落率1年47.9% 3年104.8%、5年241.7%
(出所:NRI、先週掲載の数字に追加・訂正しています)

 これらのデータは分配金再投資という前提で計算されています。これは分配金が1000円出たら、その1000円で同じファンドを購入して運用を続けるという前提で計算しているものです。実際は分配金には通常10%課税されることになりますから分配金がゼロのファンドでないとこの騰落率通りのリターンは実現できません。

■もう1つの騰落率では逆の結果が・・・
 実は騰落率の計算にはもう1つの方法があります。それは分配金を再投資するのではなく加算して計算する方法です。これは分配金1000円であればその1000円を現金として受け取ったと仮定して計算する方法です。この場合も課税されると実際のリターンとは異なります。

実はこの分配金加算で先ほどと同じ期間の騰落率を調べてみると意外な結果になりました。3年までの騰落率の結果が先ほどと逆になってしまうのです。
<分配金加算で計算した騰落率>
三井住友・ニュー・チャイナ・ファンド
 騰落率1年45.6% 3年77.8%
HSBCチャイナオープン
 騰落率1年47.9% 3年100.2%

 HSBCチャイナオープンは分配金再投資と分配金加算のリターンがほとんど同じなのにニュー・チャイナ・ファンドでは期間が長くなると大きな差が出ています。これは分配金の影響なのです。

■上昇相場で分配金を出すと再運用効果が得られない
 運用レポートで分配金支払いの実績を確認してみると、HSBCチャイナオープンが過去3年の合計で1600円の分配なのに対し、ニュー・チャイナ・ファンドは同じ時期に5200円となっています(1万口あたり)。

 つまりニュー・チャイナ・ファンドは中国株が上昇基調であった時期にファンドの資産を現金化して投資家に支払ってしまったために再投資をしない場合、分配金部分が再運用できなくなってしまったわけです。

■なぜ2つの計算方法があるのか
 それにしてもナゼ騰落率に2つの計算方法があるのでしょうか。それはそれぞれの計算方法の目的が異なるからです。

 分配金再投資のリターンはファンドマネージャーの運用能力を計測するのに適した数値です。運用資産を外部流出させないで運用した場合のリターンとして分配金に関係なく運用力を評価できるのです。ただし課税の影響などから実際のリターンとは違った数字になる欠点があります。

 一方の分配金加算のリターンは分配金を受け取りながらファンドを保有する個人投資家にとっては実感に近いリターンになります。しかしながらこの計算では分配金の出し方によって運用成績が変わってしまいます。ファンドの運用能力を公平に評価できないことがあります。

■将来の資産を長期で形成するなら分配金を出さないファンドで
 2つの騰落率の違いから学ぶべきことは次の2点だと思います。

 1つは騰落率のデータはどちらの方法で計算したものであるかを確認しなければならないということです。同じ基準で比較をしないと間違えた投資判断をすることになりかねません。

 そしてもう1つは長期で資産運用するのであれば分配金はできるだけ出さないファンドを選んだ方が良いということ。これは長期的に上昇する資産に投資するのであれば分配金を出さないで殖えた資産をファンド内で再運用することでリターンが向上させられるからです。

 分配金は手元に現金が入るので何だかうれしいものですが、その分ファンドの運用資産は減っているのです。少なくとも私は同じ運用成績なら分配金の無いファンドを選びたいと思います。

 実際、運用開始から一度も分配金を出していない投資信託も何本か存在します。投資家には一見魅力的に映る分配金を敢えて出さないファンドは、長期運用で資産を殖やしたいというニーズに正攻法で応える骨のあるファンドということができるでしょう。

今回の話のまとめ---------
●投資信託の騰落率の計算には2つの方法がある
●どちらも実際の投資の成果とは異なる数字である
●過去の分配金支払い実績も投資判断の材料になる

ではまた来週・・・。

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