コストと同時に考えるべきこと

2002年1月11日から2011年8月19日までマネックスメールに連載した マネックス・ユニバーシティ代表取締役(※連載当時)内藤忍の資産設計コラム。(現在は更新しておりません)

コストと同時に考えるべきこと

 今週月曜日に発売された週刊ダイヤモンド6.16特大号は保存版の一冊です。特集の「金融商品の罠」は金融機関の実名が入ったセミナー潜入レポートが衝撃的ですが、個人投資家にとっても金融商品の選択眼を磨くためのヒントが満載です。

 実はこの特集は昨年12月に発売された同誌12.2.号の実質的な続編です。前回は「投信の罠」という特集で投資信託にフォーカスした内容でしたが完売。金融関係者の間では伝説の一冊となっています。その内容にさらに新しい商品を追加したのが今回の一冊なのです。投資信託だけではなく預金、債券、保険までほとんどの金融商品を取り上げ、分析しています。

■資産運用に関する考え方
 個別の商品だけではなく資産運用一般に関しての考え方も紹介されています。例えば40ページに掲載されているドルコスト平均法が万能ではないという指摘や、67ページで指摘している年齢に応じた資産配分を提案することの問題といった指摘は本コラムの主張と同じです。

ドル・コスト平均法は万能か?
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/002447.html

年齢別のアセットアロケーションを考えてはいけない
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/006680.html

■それぞれの商品の罠
 個別の商品についての分析は投資信託、預金・債券、保険とそれぞれに分かれて商品名が具体的に記載されています。投資信託では外国籍の投資信託のコストの見えにくさや元本確保型商品の問題点などを取り上げています。また毎月分配型についてもかなり厳しい視点で批評しています。

 さらに預金・債券では期間延長特約付き預金、二重通貨預金、特約付き債券といった商品が例示されています。特に仕組み預金は仕組みが複雑になることによってコスト高になるだけではなく、個人投資家が投資判断ができないようになってしまう商品と言えます。特定の相場観を明快に持っている人のニーズがあることは事実ですが、果たしてコストに見合うものなのかどうかを判断することが難しいからです。

 たくさんの難しい金融商品が出てくるので何だか大変そうですが、金融商品と付き合うポイントは、実はシンプルです。「自分が理解できないものには投資をするな」という鉄則を押さえておけば良いのです。難しいもの、わからないものに無理に付き合う必要はありません。

 そしてもう1つ大切なことは「コストを下げる」ということです。それぞれの金融商品に隠されたコストが実は投資のリターンを引き下げ、それに個人投資家が気がつかないように行動心理学のワナが仕掛けられているのが問題であるという意見です。このような主張も本コラムの考え方と一致します。

シンプル イズ ベスト
http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/006215.html

■コストと同時に考えるべきこと
 このように今回の特集はカミソリのような切れ味で、分析は極めて真っ当なのですが、後半の「自分でやってみる」という部分の説明は微妙です。

 例えば初級編ではコスト高のバランスファンドを買うより、コストの安い投資信託を自分で組み合わせ、国内債券には個人向け国債を組み入れれば良い、とアドバイスしています。しかし配分比率はどうするのかについてはアドバイスはありません。「自分で考える」しかないのです。アセットアロケーションの比率の提案こそが初級編で一番大切なことなのですが・・・。

 また販売手数料が3.675%かかるようなコストの高いバランスファンドはリストが掲載されていますが、コストが低いバランスファンドは掲載されていません。この辺は公平性に欠けています。

ノーロードで1万円から投資できるバランス型ファンド
http://www.monex.co.jp/AboutUs/00000000/guest/G800/new/news701k.htm
 また中上級編では日本株に分散投資してオリジナル投信を作る方法を解説しています。しかし問題は筆者が自ら認めているように初期投資金額の大きさと追加投資の難しさです。日本株9銘柄の投資額は約200万円。分散投資を考えれば500万円以上を一度に投資できる人が対象になってしまいます。これは誰でも簡単に出せる金額ではありません。またコストは低くなりますが、銘柄選択にかかる手間やリスク・リターンの数字を見る限り、ETFでインデックス運用する方が魅力的な方法に見えます。

 海外株式への投資もETFの活用で劇的にコストを下げられます。ただ、せっかくコストが低いETFが急ピッチで増えてきても、日本以外のグローバル株式に分散投資ができる商品(例えばMSCIコクサイに連動するETF)は残念ながらまだありません。ここでも初級編と同じアセットアロケーションの壁に当たってしまうのです。

 アセット・アロケーション(資産配分)は資産運用の結果の約80%を決定すると言われます。コストを下げることはもちろん重要なのですが、資産配分をどうやって決めるのか、がわからなければ組み合わせる方法が見つけられません。資産配分には唯一の解答は存在しませんが、個人投資家が自分でゼロから作るのは困難です。そのヒントが提示されなければ自分で始めるハードルは極めて高くなります。

 資産運用にコストが重要なのは間違えありませんが、自分の投資金額や資産配分比率を決め、出来るだけ手間がかからず長期で継続できる方法を実践する方がベターというのが私の考えです。せっかくコストを下げられても、資産配分で失敗したり、手間がかかりすぎる方法では長期で続けられないからです。
今回の話のまとめ---------
●コストが低い金融商品の方がリターンが向上する
●高コスト商品を見えにくくする行動心理学のワナには注意
●資産運用は手間、配分方法、投資金額、コストなどから総合的に判断する
ではまた来週・・・。

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